恋
□ただ、その一言を
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*ただ、その一言を
「……ふぅ」
今日から新学期だ。
まだ残暑で、9月といってもまだまだ暑い。
「今日からまたみんなに会えるんだなぁ。……石田くん、にも」
今日はちょっと、期待したりしている。
なにせ、今日は織姫の誕生日だ。
(別に、プレゼントなんかいらない)
立ち止まって、秋になりかけた空を見上げる。
(ただ、一言でいいの)
雨竜に、今日が誕生日だということは言っていない。だから、周りの様子(たつきや千鶴は毎年うるさいだろう)から知ってくれればいい。
それで、一言。
『おめでとう』と。
「井上さん、おはよう」
空を見上げたまま、立ち止まっていたら声をかけられた。
前を向くと、雨竜が立っている。
「い、石田くん……?何でここに?」
「何でって……いつも通っているけど」
そうだとは知らず、恥ずかしさで顔が少し赤くなる。
「一緒に行かないかい?」
「あ、うん!」
他愛もない話をしながら、歩く。