他の話

□中央で
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ゆめいろのセントラルサークル。
各エリアへと繋がる鏡と、それらを円形に囲う水色の枠だけの建造物。
やさしい、綿菓子のような雲が漂う。
それ以外は何もない。誰もいない。
終わりの見えないゆめの向こう側を眩しげに目だけを細め眺める。
寒明けの、まだ肌寒い時期を彷彿とさせる透き通った空気を吸い、胸を冷やした。
体を預けた建造物からは無機物特有の冷たさが背に伝わる。
どれだけの間ここに腰を下ろしていたのか。気にする必要はない。
彼は隣で静かに寝息を立てている。
「まるであさのようだ」
太陽は存在しない。
中身のない体を投げ出すように視線を上へと放り投げ、何気ない空を確認した。
混ざり物もない頭で。
生命の感じられないセントラルサークルには、鳥一羽飛ぶこともなかった。
いつ見ても同じだ。
改めて”中央”を認識し、徐に視線を下げる。
つかみどころのない靄が地を無機物を這っているのが見えた。
薄い桃色と橙色が水色の反射光を受けて靄とともに混ざり合ってゆく。
混ざっては消え、また何処からか現れ。
誰かに似ている。
ぼんやり、そう思った。
彼は隣で静かに寝息を立てている。
少し、こちらに体重がかかっている気がした。
「またあした」
僅か隣に目を向けた拍子に、頬に触れた彼の柔らかい髪が鬱陶しい。
静けさに押し出され自分を急かす微睡みに従い目を閉じた。


暖かい香りが気持ち良い。


……。
暖かい?

はっと目を開き意識を叩き起こす。
いつのまにか隣の彼に体を預けて寝てしまっていたらしい。
ああ。きっと不愉快と一緒に、眉間に皺を寄せながら動かずにいてくれたのだろう。
「あ……」
謝ろうと顔を覗き込むと、彼は何か考えるように俯き目を閉じ、規則正しく呼吸をしていた。
「……寝てるの?」
返事のないその寝顔は硬く、不機嫌を思い起こさせる(それは彼にとっての真顔でもある)。
寝ていても隙の伺えない姿が面白く、つい口元が緩んだ。
同時に自分の隣が眠る場所として許されている事実に嬉しくもなった。
彼を想い頬を緩ませたまま体勢を戻し。
何気なく、自分を支えてくれる無機物を手の甲でそっと撫でる。
ずっと、変わらずここに立ち続けるそれからはひんやりとした冷たさが伝わって。
その冷たさがとても心地よく、似ていると思った。
彼は隣で微動だにせず寝ている。
先程より、力が抜けた表情をしている気がした。
「またあした」
彼の深い傷跡をやさしくなぞった時に、手に触れた黒く滑らかな髪が愛しい。
それを惜しまず離れ、幸せな夢とともに。
立ち上がりディメンションミラーへ向かった。

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