他の話

□廃墟と毎日
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今日は。それはそれは穏やかな1日だった。
適度な雲で遮られた光が差す廊下や部屋は変わらず美しい。
昨日の今日で、件の住人の問題も解決したとの連絡が入った。
向上心を持った人間は好きだ。嬉しい。
これを知らせてくれたボンカースは不器用ながらも毎日よく働いてくれる。
この穏やかなうちに休暇でも与えたい。明日には。
そうしよう。
この調子で、相談事を持ちかけてくる住人もなかった。
今日このエリアに不幸な人間はいない。
とても、良い日だ。

……
今日は珍しくモーリィが訪ねて来た。
エリアの一番明るい場所で影を探すように歩いていた。
地下暮らしの彼には酷な場所ではないだろうか。大丈夫なのだろうか。
少し早足で歩み、声をかけた。
ボンカースに用があるそうで、急遽呼び出すこととなってしまった。
せっかくの休暇のところ申し訳ない。
モーリィには比較的窓の少ない部屋で待ってもらうことにする。
途中、相談者が来訪し退屈な思いをさせてしまった。
場所といい、彼にとって不愉快な時間を押し付けてしまっただろう。
今日は反省点の多い日だ。
……。
椅子をぶつけられてしまった。
気絶している間に帰ってしまったらしい。
失言をしたのかもしれない。次の会議で会った時に謝ろう。

……
仕事らしい仕事が入った。
応じなければいけない。
此処は平和でなければならないのだ。
結果、混乱の原因となるこの危険分子は、ラディッシュルインズに送ることとなった。
残念だが。仕方がない。
秩序を維持するためには必要なことだ。
明日は何事もないと良い。

……
今日は月末に行われる会議がある。
会議に対して消極的なダーク、……ダークメタナイトを連れ出すところから始まる。
俺か、タイタンの役目だ。他の皆にその気はないらしい。
大抵は動く気配を見せない彼を抱えて向かう事になる。
今回も同く、彼は面倒くささを訴える空気を醸し出していた。
小脇に抱えて歩く(なんだかシュールだ)
「小柄な割りには重いものだな、鍛えられている」
と言えば、
「お前の筋肉量に比べりゃそうでもないが」
と返ってきた。
小柄は余計だ、と足を蹴られてしまい、歩く気になったそうなので降ろしてあげた。
会議は住人の人口管理、各エリアの問題報告に対策、マインドからの伝言やその他報告などで進行する(当然これだけではない)。
毎度毎度、俺の報告の後には"独立国家"と揶揄される。
管理が過剰に見えるのだろうか。方針についてマインドに相談すべきか。
帰り際、モーリィに謝ると怪訝な顔をされてしまった。
失言は俺の勘違いだったか?
……
新しい月だ。
今月も、健全でありながら"間引き"に申し出てくれた住人が数名。
手間がかからず、ありがたい。
顔に見覚えのある者は帰らせた。偏らせてはいけない。
基本的に、間引き対象者に該当する者は病人や怪我人など。
生活に支障をきたしていると感じている住人だ。身体の回復も兼ねての死。
会議で指定された人数に満たなければ該当外の住人から選ぶしかない。
死にメリットのない対象者には一定期間、望みを叶える期間を与えている。
俺がそれを聞き入れる。
秩序に反しない範囲の、可能であるものに限るが。
脆弱とはいえ、やはり悪意ある鏡の住人だからか。
風変わりな望みを持った人間がちらほらと見える。
応えるのもなかなかに大変だ。
先月は性行為を求めてくる者なんてのも居た。
応えたとも。
ただ、予定より早く間引きを実行する事にはなったが。
記憶に残されては流石に都合が悪い。

……
今回集まった住人の望みはどれも簡単なもので、あっという間に済ませてしまった。
相談者もない。暇だ。

……
良い知らせも悪い知らせもない。
今日も地上は綺麗で、住人も活気に溢れている。

……
同上。

……
同上。

……
偶然会ったマインドに件の話をした。
「そんな事ないよ?君のやり方は俺も助かってるんだ。この調子で頑張ってね」
笑顔でそう言ってくれた。
彼の役に立てているようだ。
嬉しい。
方針は変えないでいいだろう。
嬉しい。

……
また、平和を乱す者が出た。
先週に続いて、あまりにも間が無い。
やはり、やり方に問題があるのではないか?
これを踏まえてもう一度、マインドに相談してみよう。

……
罰を与えると決定した。
昨日の件だ。
追放とまではいかないが、重い罰を。
心が痛む。悪い事をしたのだと解ってもらう為だ。仕方がない。
暴れて手がつけられないので止むを得ず気絶をさせて運ぶ。
研究区画奥深くの地下にある、そのための部屋へ向かった。
痛い思いはなるべくしてほしくない。
少しずつ血を抜き、朦朧とし始めている所をゆっくりと諭す。
これだけで再発の可能性はぐっと減った(全く無くなるというわけではなかった)。
耐えかねてまた気を失った住人を手当し部屋に繋いだまま、しっかりと施錠して離れる。
研究区画に俺以外の足音が響くのが聞こえた。
モーリィが、居る……?
様子がおかしい、何か呟いている。
声をかけてみたが反応がいつもより鈍い。
迷ったらしい。顔色が悪く、具合も良くないようだ。
「心配してくれんのなら案内もしてくれよ」
勿論だと返しレインボールートへ案内した。大丈夫だろうか。
心配だ。
心配だ。
ああ、心配だ。
……怒られてしまった。
「……タイミングが悪いものだな」
彼は難しい。
今日の俺はぼんやりしすぎていた。

……
今日も例の部屋へ行き同じ作業を繰り返す。
今回はそう長くはかからなさそうではある。
はやく更生してほしいものだ。
哀れで仕様がない。
せめて地上だけは良い日になるといい。
明日も、明後日も。

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