Night&Knight−夜と騎士−

第四話
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あの澄んだ声が耳から離れない。


政宗、さん…

 憂いを帯びた瞳にほんのり紅く染めた頬。

それは、男の理性を狂わせるには十分で。


タクシーの窓から見上げた彼女の表情が焼きついて頭から離れなかった。


「柚璃…」


 政宗の手には走り書きだろうが、それでも綺麗に書かれた文字が並んでいる。


――愛おしい



そう思ってしまうほど、名残惜しい。


客ではない女


しかし、この服装を着ている限り、自分はホストであり、女は客の一人でしかない。


それでも、彼女だけは――柚璃だけは違うのだと心の何処かでそう主張する自分がいた。


柚璃の乗ったタクシーの姿が見えなくなると、政宗はクラブへと戻る。


夜の営業であるホストクラブの本番はこれからだ。


カツカツ、と靴の音が響かせながら、扉を開ければそこには先程よりも煌びやかに光る別世界が広がっていた。


何人ものスーツを各々の着方で着こなした者達が現れた政宗を一瞥する。



「女、来てたんだってな?」


 政宗と逆の左目に眼帯をした男が口元を吊り上げながら楽しげに口を開いた。

銀色の髪が光に反射してキラキラと輝いている。


見知った顔のその男の言葉にもうバレてんのか…と息を吐いて、その情報を流したであろうオレンジ頭を捜す。


「猿…てめェ…バラしやがったな?」

「いやーこんな面白い事はないと思って。だって面白い事は全員で分かち合わなきゃ損でしょ」


 あははは、と心にもない笑いで誤魔化す佐助に政宗がイラッときたのは言うまでもない。


「それに、竜の旦那だって結構ちゃっかりしてるし」

「Ah? なんのことだ」


 佐助の言葉に覚えのない政宗は訝しげに彼を見れば、佐助はまたまた〜! といつもの張り付いた笑みを作る。


「あの女の子、かなりの上玉だったじゃない? しかも、貢いでくれそうだし」


 確かに、外見は女の中でも群を抜いてやがる。

あれほどに顔が整った女なんて、そうはいないだろう。

そんな女にお目に掛かれるなんて滅多にない。


佐助の言いたい事をすぐ理解はしたが、彼女を自分に貢がせる対象に入れるつもりはない。



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