Night&Knight−夜と騎士−

第十四話
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「来たか」



 ガラス張りの窓から外の景色を眺めていた男は、窓越しに映ったその人物に視線を移す。

 ガラスに映るその姿をだが。


 相手は案の定、急に呼び出されて不機嫌極まりないというような不貞腐れた表情をしていた。

 眉間に皺を寄せてこちらを睨んでくるのは相変わらずといったところか。



「……何のようだ」

「何の、とは……父親が息子に会うのに理由などいるか?」

「Ha! あんたが俺を呼び出す理由なんていくらでもあるだろ? 理由なく俺に会いたいなんて嘘、死んでも言うな。反吐が出る」


「相変わらずだな。本当にお前は昔から何一つ変わらない」

「あんたもな」


 背を向ける父親を睨む息子に、そんな息子を窓越しに一瞥する父親。

 相手の顔を見ないで何が息子に会うのに理由などない、だ。

 今も窓越しにしか目を合わそうとしない奴に言われたくない。


「まあいい。今日、お前を呼び出したのは他でもない。お前が先日知り合った女性のことだ」


 相変わらず、こちらに背を向けたまま話し出す父親にいい加減腹が立つが、その言葉に眉を寄せる。


「俺が誰と何処で何しようが、あんたに関係ない。いい加減俺を監視するのはやめろ」


 ギリッと歯を噛み締めながらそう言えば、彼の父親は少しの間口を閉ざしたが、何事もなかったかのように続きを話し始めた。


 まるで、息子の返答など聞いていないと言っているようで、彼は自分の意見を無視されて舌打ちをしていた。

 いつもそうだ。

 何を言おうが、結局はこの目の前にいる父親の思惑通りに進み、身動きがとれなくなってしまう。

 そうなるようにこの男が仕向けているのだが、親子と言えど容赦はなかった。


 それは昔から変わらず、何度この男に泣かされたことか。



「――時に政宗、お前が珍しく執着しているその女性。よもやいつもの戯れではなかろうな」


「……は?」


 一体何を言い出すかと思えば、相手から出てきた言葉に思わず抜けた声を出してしまった。

 何故、この男がそんなことを訊く? ガラス越しから見える男の表情はいつもとは違う少し真剣みを帯びたもの。

 何故、あんたがそんな顔をするんだ?

 何故、あんたがそんな目で見るんだ?


「珍しく自ら関わっていると訊くが、それが一時の戯れならば早々に見切りをつけなさい」

「なっ……そこまであんたに指図される云われはねぇな」

「お前の毒牙に掛かる世の女性に対して父親として申し訳ないと言っているんだ。今までどれだけの人を傷つけてきた? 政宗、お前の気まぐれで傷付く人がいるのだぞ」



「っ! 知った風な口を訊くんじゃねぇ!! 今更父親ヅラかよ……ふざけんじゃねぇぞ」


 ギュッと強く握り締めた拳が震えている。

 目の前の男を殴りたくて仕方がないが、相手は自分の父親でこの伊達家の当主で、いくら息子といえども反抗すればどんな末路が待っているのかぐらい十二分にわかる。

 だが、例え相手がそうであったとしても言っていい事と悪い事ぐらいある。


「今更……? その父親をずっと避けてきていたのは何処のどいつだ政宗」

「っ……」


 気が付けば、窓越しに見ていた父親が振り返り、真っ直ぐと自分を見つめていた。

 いつになく真剣な男に政宗は思わずたじろぎそうになるのをぐっと堪える。

 拳を握り締め、歯を噛み締めて相手を睨みつけるその行為は明らかに敗者の負け惜しみと大差ない。

 自分自身でそれに気付きつつも、やめないのは腐っても負けを負けと認めたくないから。

 背を向けて逃げ出したくはないから。



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