Night&Knight−夜と騎士−
□第十話
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「じゃあ、柚璃ちゃんと慶次は従兄妹同士になるわけなんだ」
ようやく柚璃に赦してもらったのか床から座る場所がソファに昇格した佐助は自身がとんだ勘違いをし、彼女を酷く傷つけたことに罪悪感を感じ始めていた。
先ほどはあまりの恐さに土下座で何度も赦しを懇願したが、その時はただ恐怖心に駆られての行為だったため、改めて佐助は本当に申し訳なさそうに自分にコーヒーを差し出してくれた柚璃に頭を下げた。
「俺様、とんだ勘違いして本当にごめんね……?」
「いえ、もういいですよ。あれだけ謝ってもらってしかも何だか私も大人気なかったですし……」
頭に血が昇っていたため、頭を冷やして考えてみれば男の人になんてことをさせてしまったんだ、と柚璃は逆に恥ずかしくなってしまった。
「っていうか、頭に血が昇って非常識なことをした私にも非はありますし……その、こちらこそ、すみませんでした」
佐助と同じように頭を下げた柚璃に佐助は目をキョトンとさせていた。
一方的に悪いのは自分であって、決して彼女が悪いわけじゃない。彼女自身が怒るのも理解できるから、そんなに気にすることないのにと思ったが、目の前の女の子は自身の行為を恥ずかしいと思っているようだ。
裏表があるわけではなく、本当に頭に血が昇ると無意識にああなるらしく計算とかそういうのではないのだと理解するには十分だった。
「いいって! 柚璃ちゃんが怒るのは当然だし、こんな時間に押しかけたこっちが悪いのに。本当謝んなくていいからね? 柚璃ちゃんが気にすることないから!」
「でも……」
佐助はそう言うが自分自身に納得いっていないのか、まだ何か言いたそうな表情をしていた彼女だが、これ以上は相手にも失礼だと思ったらしく、申し訳なさそうに笑みを浮かべた。
「じゃあ……お言葉に甘えて」
「そうそう、こういう時は謝んなくていいんだから。女の子を傷つけちゃった俺様が悪いんだし」
「そうだぞ! 某の言葉も訊かずに柚璃殿にあのような暴言を吐いて……」
「い、いいんです! その……勘違いされるのも無理はないと思いますし……大人になって従兄と生活してるなんて珍しいでしょう? だから、佐助さんも幸村さんも本当に気にしないで下さい」
確かに従兄と暮らしているのは珍しい。だが、それぞれの事情があるのだし、それが駄目なことなんて何一つない。
「そうそう、もともと俺が柚璃ん家に転がり込んだようなもんだしな」
ハハハと笑ってそう言う慶次だが、それは紐というんじゃないだろうかと幸村以外の二人が思った。
「何はともあれ、真田の旦那と俺様も含めて、本当ごめんね?」
時計を見れば時間は深夜の一時を過ぎている。
人の家に訪れるには非常識な時間帯であると自覚しているようだ。
しかし、家主である柚璃や慶次はあまり気にした様子はなかった。
「大丈夫ですよ。普段なら私も仕事でよくこのぐらいの時間になりますし、慶次も起きてますし」
「そうそう、あんま気にすんなって!」
この従兄妹達の良いとこは人が良いというとこだろう。
本当に気にしていないのか、二人は笑みを浮かべていた。
「それより幸村さん、佐助さん。今日はもう遅いですし泊まって行かれます?」
「え!? こっちが押しかけて迷惑かけてるのにそれはさすがにできないって! すぐ帰るつもりだったし!」
慌ててそう答える佐助だが、目の前にいる柚璃は苦笑しながら彼の隣を指差した。
「でも幸村さんが、座ったまま眠っちゃったみたいですし」
「だ、旦那!? ちょっとただでさえ迷惑かけてんのに何寝ちゃってんの!?」
「むぅ……さすけぇー……うゆしゃいぞー……」
さっきからやけに大人しいなと思っていたが、どうやらこっくりこっくり船を漕いでいたようで、ついにはそのままコテンとソファになだれ込むように横に倒れてしまった幸村に佐助は彼の胸倉を掴んで起こそうとするが、すでに寝息が聞こえていたことにがっくりと頭を落としたのだった。
「な? 柚璃もいいって言ってるし泊まっていけばいいじゃん」
相変わらずだなぁと楽しそうに笑う慶次に佐助ははぁっとため息を吐くしかなかった。
勘違いして仮にも竜の旦那の女かもしれない子を傷つけといて格好がつかないのに、旦那まで寝ちゃうしで散々な日だと思ったのはここだけの話である。
「部屋なら余ってますし、お客様用のお布団もありますからどうぞ泊まって行ってください」
「……お世話になります……」
後で政宗に殺されると本気で思った佐助だった。