Night&Knight−夜と騎士−
□第七話
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休日の昼間というのは、何処も同じようなものだ。
少し外を出るだけで、人ごみの波が押し寄せてくる。
ただでさえ、旦那だけで暑苦しいというのに、外のしかもショッピングモール街になんて繰り出してみろ
暑苦しさが二倍にも三倍にもなってしまうじゃないか。
そんな佐助の心の叫びも空しく、先ほどまで隣にいたはずの幸村はいつの間にか自分の視界から消えていた。
「……うっそん」
旦那を一人にしようものなら、大将にお叱りを受けるのは自分だ。
まぁ、勝手に出歩く旦那も悪いのだから、この際、大将の説教は半分にはなるが、それとこれとは別問題。
ホストのくせに女性に慣れない彼が一人でふらふらと歩こうものなら、いつ何時、旦那に危害が加わるかわかったもんじゃない。
女性の扱いには慣れないくせに、あの容姿だ。
嫌でも人目を惹いてしまう。
「まーったく…ウチの旦那は手が焼けるんだから」
頭を掻いて、息を吐くと佐助は人ごみの中へと入り、お目当ての幸村を捜し始めようとした。
だがその時、彼の視界に入ったその光景に思わず、立ち止まってしまう。
「え……嘘、竜の旦那が…?」
佐助の目に入ったのは右目を眼帯で覆った一人の男とその男に連れられて歩く女。
しかも、その様子だと営業ではないし、同伴…でもない。
つまりは、純粋なプライベートといったところだろう。
何故なら、店では決して見せない優しげな表情に佐助は呆気に取られていたからだ。
「独眼竜の旦那ってあんな風にも笑うんだ……意外」
愛おしそうに女を見つめる政宗のその姿を自分は今まで見たこともない。
そして、政宗に手を引かれて歩く女に佐助は見覚えがあった。
先日、彼が怪我をさせてしまったと言って、手当てのために営業前の店に連れて来た子だ。
類を見ない整った顔立ちをしたその女は、政宗に耳元で何やら囁かれて頬を紅く染めている。
その仕草があまりにも初々しくて、こういうことに慣れていないのだろうと確信した。
だが、嬉しそうに政宗に微笑み返すその表情は乙女のそれだ。
「なーんか、相当入れ込んでるよねぇ」
どちらが、と問えばもちろん政宗の方が、と佐助は即答するだろう。
彼は基本、自分から女に近づいたりしない。
それは、自身が何もしなくても女の方から寄ってくるのを知っているのだ。
旦那もそれだけの魅力を放つ政宗を見習って欲しいものだと、佐助は思う。
少しでも政宗の色香を幸村も出せればなぁ…と少しだけ遠い目で空を見上げていた。
だが、幸村を指名する今の客は、新鮮な幸村目当てなのも確かで。
(ま、旦那はあのままが一番なんだろうけど)
では、何故彼や自分がホストクラブなんて所に籍を置いているのか。
それを言えば、独眼竜に西海の鬼達も同様だろう。
何せ、自分達はもともとホストになろうと思ってホストになったのではないのだから。
とある目的のため。
そのためだけにいるのだ。
(あ、でもそれを考えると竜の旦那が一番目的に近いってことか)
つい、と彼らに目をやればそこにはもう、政宗達の姿は見えない。
「…さて、これからどうなることやら」
俺も旦那も竜の旦那も。
本当に見つけられるだろうか
真に自分だけを愛してくれる人を――