Night&Knight−夜と騎士−
□第五話
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「…なぁ、何にやにやしてんの?」
「してんのー?」
「えっ!? なな、何にもないよ?」
「…何、吃ってんの」
「てんのー!」
「そそ、そんなことないない!!」
携帯を手に持ちながら、慌てふためく柚璃に慶次とそんな彼の膝の上で遊んでいた綾人が笑っていた。
いや、慶次の場合はわざとだろうが、綾人に関してはただ単に彼の真似をしているだけにすぎないのだろうが、それでも、意味も分からずに慶次と共にからかうように責められれば、誰でも慌てたくもなるというもの。
と、柚璃は思っている。
実際、そんな人間は彼女しかいないのだがそれに気付かぬように必死に取り繕っている従妹を微笑ましく見る慶次は、とうとう目に入れても痛くない従妹にも遅い春がやってきたのだと顔を綻ばせていた。
「綾人、恋はいいぞぉ」
「こいー?」
「オゥ! 恋ってのは甘酸っぱくて、でも、こうキューンと胸が締め付けられてだな」
「けーじ、おむねいたいの?」
慶次の言葉に心配そうに彼を見上げる綾人に、慶次は思わず可愛さのあまり自分の膝元で遊んでいた幼子を抱き締めたのであった。
「…なんていい子なんだ――!!」
「キュー!」
慶次の肩に乗っていた夢吉も何故か同様に、綾人に抱きついている。
「い、いたいよぉ」
くすぐったそうに、でも本気で嫌がっている風でもない綾人と本気で抱き締め上げている慶次の二人を見て、柚璃は深くため息を吐く。
「……とりあえず、私放置?」
私の話題はどうなったんだと思わず突っ込みたくなったが、とりあえず話題は逸れたので安堵する。
そして、もう一度携帯の画面を見て柚璃はクスリ、と笑みを浮かべるのだった。
「…明日、か」
待ちに待っていた?
待ち焦がれていた?
正直、よくわからない。
でも、
貴方に会えるのを楽しみにしている私が確かに存在しているのだと、気付いたんだ
これって、良いことなんだよね?