有栖川文学

□空
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題『アナログなアナグラ』







アナグラから



アナグラの中から外へ


どこから来たのか


それはもうデップリとした人が、穴から出たくてね。モガモガしている様子をムジナが見てたんだ。
あとアナグマも見てたんだ。

一緒に中から見てたんだ。

もちろんデップリした人にはデップリーって素敵な呼び名を考えてね。



一生懸命に出たいデップリ-が。
一つしかない出入口からデップリーが。
長細い手をワイワイ出して、丸い地球儀みたいな頭をノキリと出して、ちょうど胸の辺りをセイノと出すトコに差し掛かった時、ムジナは『きっとダメだろう』ってチイサク言った。アナグマは『どうにもこうにも腹が出ない』と呟いた。それがデップリ-に聞こえたらしくて『何を言う!!きっと出られるじゃないか!!僕だって好きでつっかえているのではないしね!!』って。デップリ-は怒る仕草をしてみせた。優しいからホントに怒ってる訳ではないのだけれども。
ムジナとアナグマは黙って見ている事にしたんだ、頑張っているデップリ-は腹でつっかえて進退極まっている様子。ホトホト草臥れたのか、デップリ-はムジナとアナグマを呼んだ『おぉぅい。おぉぅい。僕のズボンのポケットの中にチョコレートが入ってるんだぁ。出して僕の前に持って来てくれないかぁ。もう腹ペコでぇ。』って言う。でも、考えてもみたら、アナグラから出る為のたった一つの出入口にデップリーはつっかえている訳なんだ。じゃあどうして中にいるムジナとアナグマが出られるのかい?
だからムジナとアナグマはデップリーにチョコレートを与える事を無期限で延期する事にしたんだ。茶色くて甘くて少しだけ苦いのを。それは与えない。このままじゃムジナやアナグマも外へ出られやしないし、それこそいつ春が来たのかも分からず仕舞いになってしまうから。
春には蕗や菜の花が美味しいから。


与えなくなってもデップリーはチョコレートを求めてキリキリ声を出し続け肥えていた、でもあんまり放っておいたからグウって言ったのを最後にどんどん痩せて、終いにはなかみがガランドウの細長い一輪挿しみたいな身体になってきた。デップリーはこれでようやく身体が抜ける。晴れて自由の身だし、チョコレートもモシモシ食べ放題。と思い。ムジナとアナグマはやっと外へ出られて河で髪を尖らせる事が出来るじゃないか。って思った。
そうと決まればオチオチしてられない、デップリー改めヤセッポチーはムイと胴体を潜らせ、ムジナとアナグマはヤセッポチーの足の裏をソイヤと押した。スッポシと抜けたヤセッポチーは慌てて一緒に抜けた服を着ながらチョコレートを頬張り、ムジナとアナグマはこれまた一緒に抜けた革靴を少しかじった。
その後、ヤセッポチーはモシモシとチョコレートを食べ過ぎたので、またみるみる肥えて元のデップリーに戻り、ムジナとアナグマは蕗の薹を摘んでやんわりとした味噌と混ぜた。なんとなくお互いに落ち着いたから、ムジナが訊ねたんだ。『いったいどうしてアナグラから出ようとつっかえてたんだい?』するとデップリーがこう答えた『中でメンテナンスをしていてね、お腹が空いたからチョコレートを食べたら…食べ過ぎたらね、それは抜けられないじゃないか。』ムジナとアナグマはひどく納得して『また遊びに来て下さい。メンテナンスしに来て下さい。』と言いました。だからデップリーは『ヤセッポチーになりすまして、チョコレートを持たないで遊びに来たり、メンテナンスしに来たりしますよ。』と言いました。

デップリーはヤセッポチーになりすまして一回だけ遊びに来たけれども、次の春が来た時にはすっかり違う人がメンテナンスに来ました。
ムジナとアナグマがその知らない人にデップリーの事を訊ねると、その知らない人は『昨日死んだ』と言いました。ムジナとアナグマは(きっとチョコレートの食べ過ぎの肥え過ぎだろう)と思い、互いを見合せました。
でも本当は違います。
メンテナンスは鳥の糞を片付けたり、埃にまみれて風に吹かれたりする仕事です、デップリーはとうとう身体を壊してしまったのでした。
けれどもムジナとアナグマはそれ以来チョコレートを食べ過ぎるのをやめました。またデップリーに会いたいなぁと思いながら。


メンテナンスの仕事をしています。
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