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□終止符の朝
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一瞬、彼が大きく目を開いて
こっちに、ツカツカと近づいてきた。
殴られるのかと思ったら
その場に座り込んで
ただ、黙っている。
その間に俺は、彼の部屋にある
自分の荷物を、手早く鞄に詰めていく。
全ての荷物が詰めおわり
それじゃ、と小さく呟いて
扉へ足をすすめた。
「待て」
不意に、彼に呼び止められ
俺の足が止まる。
「……何?」
「お前は、俺が全ての愛人と手を切って
行くなと必死で引き止めたら
戻ってくるか…?」
彼らしくない、思い詰めた顔と声で
そんな台詞を俺に吐く。
けれど、どんな台詞を吐かれても
揺らぐ事のないこの心を
いつしか、俺は抱いてた。
「……無理だよ もう戻れない」
切なげな笑みを浮かべて、そう言った。
そして、最後に
「…さよなら」
そう一言呟いて、部屋を出た。