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□教えてせんせい。
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「山本、始める前に言っとくが

 やるからには本格的にやるからな」


「おう!」




山本を愛しく感じてしまう自分を
どっかに追いやって
必死に勉強モードへと切り替える。




「…それと、この時間だけ

 俺を『先生』とよべ」


「へっ?」



素っ頓狂な声を出す山本。



「その方が感じ出るだろーが!」


「…はいはい」




呆れ笑いを零す山本は気にくわないが
あまり気に掛けず、勉強に入った。





「…で、どこがわかんねーんだよ?」


数学の教科書を開きながら
山本に問う。




「んー…ここらへん?」


何やら曖昧な返答をする山本。


そんな山本にカチンときて

「お前やる気あんのか?」

どす黒いオーラを背後に掲げて
鋭く山本を責める。




「あるある!んな怒んなって!とりあえず最初っから教えてくれよ、な?」


「チッ……」




得意の笑顔で丸く収められたのは
腑に落ちないが、俺は山本の要望通り
最初から教えてやることにした。





「ここは、この公式覚えねーと

 何もできねーから、とりあえず

 公式を頭にたたきこめ」



「ん〜」



「それから、こういう文章題は

 大体ひっかけなんだよ。

 重要なのは最後の文だけだ」



「ん〜」



「じゃあこれ解いてみろ。

 俺の話聞いてたらできんだろ?」




「…なー獄寺ぁ」



「…『先生』だろ」



「隼人せんせぇー」




「…なんだよ」



「ちょっと休憩しよーぜぇー」




そろそろ言いだす頃だとは
思っていたが…

こいつの集中力持続時間は
俺の推測を遥かに下回るものだった。





「…ここの単元終わったらな」


「え〜」


「あとちょっとだろーが」




山本は、らしくもなく
ふくれた顔つきをして
うーだのあーだの、
わけのわからぬ母音を零していた。





「なー獄寺ぁ…」



少し経ってから、山本が再び
猫なで声で俺に話し掛けてくる。




「…今度は何だ」


訂正も面倒になってきたので
あまり気に掛けず、返答をする。




「俺さー…数学よりわかんねー教科あんだわ」



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