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□ゆめごこち。
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獄寺と付き合いだして確か一週間くらい経った今日。
俺は未だにキスもできずにいた。


キスどころか、まともに手も握れていないかもしれない。

そりゃ晴れて恋人同士になれたわけだし
キスだけじゃなくあわよくば、まぁ…色々したい。





なのに未だにキスすらできない俺って。
拒否されるのが怖いからって何もできない俺って。



(…何なんだ)







「なぁ、今日山本んち行っていいか?」

「え?お、おう!」



いきなり話し掛けてきた獄寺に
悪くはないがまぁ良くもない、
言ってしまえばヨコシマな思考を
読み取られないように、いつもより
わりかし大きな声で笑顔で、返事をした。







家に着いてから、獄寺は普段通り漫画を読んだり俺と下らない談笑をしたりとそれはもう普段通りだった。






─俺はというと。


先ほど何気なく考えていたキスがどうのこうのということで頭がいっぱいだった。



獄寺には申し訳ないが、談笑の8割は生返事だっただろう。





意識してみると、獄寺のひとつひとつの言動や仕草が俺を誘っているかように感じる。




不自然なほど外されたボタン。

目が合うと頬を赤らめて控えめに下降する視線。






(…誘ってる?)



都合のいいように解釈をしてつい顔が綻ぶ。





確かに拒否されるのは怖い…けど。

これからもずっとこの状態が続いて
お互いのキモチが離れていって
だんだん話さなくなって距離ができて
自然消滅…なんていうオチは絶対にゴメンだ。




俺、獄寺のこと好き、だし。
好きだから、色々したいって思うわけだし。






そんなことを考えていると自然に体が動いていた。









「…獄寺」

静かに獄寺の肩に手を置く。


「な、何だよ…」

いきなり真剣な顔をして迫ってきた俺に
獄寺は訝しげな顔をしながら少し後退った。








「キ……キス…して…いいか。」

「………は!?」


獄寺は短く驚愕の声を上げたと思えば
みるみるうちに顔が真っ赤になっていく。

そして、その顔を隠すように手で口を覆って俯いてしまった。





「ご…獄寺?」


(…これは拒否、なのか?)


不安げに獄寺の顔を覗き込むと
やっぱりまだ獄寺の顔は真っ赤で
ぼそぼそと何かを言っていた。





「え…何?」

「だか、ら…」






「別に、聞かなくても…いーっつの…」



その言葉に、つい俺まで赤面してしまう。





「ご…獄寺…」

「……………」




(あぁ、もうダメだ)






「う、わっ」


グイっと力強く獄寺の腕を引っ張ると
衝動的に獄寺が俺の上に乗っかる形で倒れこむ。





「お前っ、なにす…んっ」


ムードもへったくれもありゃしねぇ。
悪態を吐こうとした獄寺の唇に
少々強引に唇を重ねた。




きっと夢心地、というのはこういうのを言うんだろうなぁ。





獄寺が息苦しさに少しだけ顔を離す。

俺にとってはそんな時間さえ勿体なくて。
今度は顔に手を添えてもう一度口付けた。



「んっ!…んー…」





きっとこの夢心地が終わってしまったら
獄寺は顔を真っ赤にしてバカだの死ねだの
俺に罵声を浴びせるんだろうな。



俺は数分先のことを想像しながらも
さっきより深く、濃くキスをした。






(ああ、ゆめごこち。)







fin.

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