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□つまり、盲目
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「…なに」
「へ?」
先程から浴び続けている
痛いほどの視線に耐えきれなくて
思わず零れた言葉。
「何見てんだよ」
「─え、俺見てた?」
「は、」
予想外の返答に若干戸惑っていたら
昼休みの終了を知らせる予鈴が
屋上に鳴り響いた。
「お、教室行くか」
「、ん」
…一体何だってんだよ。
『─で、あるから…』
つまらない授業を聞き流しながら
俺は、表紙には立派に「数学」と
記されたノートに、暇潰しと言う名の
落書きをしていた。
すると不意に、視線を感じる。
ふっと後ろを向くと、山本が
ぼーっとこちらを見ている。
最初はあまり気に掛けないように
していたのだが、その視線が
他に向けられることはなく、
ただ、「俺」という的だけを
集中的に見つめ続ける。
「っだー!もう何なんだよ!」
そのしつこい視線に耐えきれなくて
授業中にも関わらず、俺は叫んだ。
俺の声が教室内にこだまする。
クラスメイトや、教師は
ぽかんと口を開けていた。
「─気分悪ぃ、帰る」
空気の淀みを察して、
手早く荷物をカバンに詰め、
待てだの何だの喚いてる教師を
横目に、教室から出た。
サカサカと足早に廊下を
歩いていると、
後ろから誰かが追い掛けてくる。
「獄寺!」
その声に反応して、
ぴたりと足を止めてしまう。
ゆっくり振り返ると、そこには
俺が教室を飛び出した
原因を作った張本人。
─山本がいた。
「…んだよ」
「どうしたんだよ、何があった?」
「お、まえの、せーだろ…」
「え?」
「お前、が…見るから…」
何だか急に恥ずかしくなって
俯きながらぼそぼそと呟く。
「─何かさ、俺変なんだんよな」
「、え?」
またも予想外の返答に
またも動揺する俺。
「変、って…」
「何か、獄寺しか見えない。」
「な…っ」
その言葉に、思わず心臓が跳ねて。
みるみるうちに顔が真っ赤になり
火照っていくのが分かる。
不意に、山本の顔が近づいてきた。
距離はわずか数センチ。
「獄寺ぁ」
「─、なに」
「すき。」
「え…ん、っ」
山本は、俺の言葉を遮るように
俺の唇に、ちゅ、と啄むような
キスを落とした。
そして、俺の耳元でそっと囁く。
「だから、もっと見つめていい?」
俺が何て答えるか分かってて
わざと、そう問う。
かなりの性悪だ。
「…いーよ」
─だけど、そんな山本が俺は好き。
fin.