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□教えてせんせい。
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夏という苦痛な季節が終わり、
心地のよい秋さえも
別れを告げようとしている。



綺麗に色付いていた紅葉たちも
すっかり色を落とし、
地面に横たわりだしてきた。






俺は今日、十代目の欠席を理由に
寒さが凍り付いてしまう前に
さっさと帰路につこうと思っていた。


最近は夜になると、午前中よりも
一層寒さが増して
寒がりの俺にとっては
最悪の気候だからだ。





無駄に長い担任の話も無事終わり、
カバンを肩に掛け、教室から
足を踏み出した瞬間、

誰かに腕を掴まれた。




訝しげな顔をしながら、振り返ると

そこには、ばつが悪そうな顔をして
片手で詫びのジェスチャーを掲げている山本の姿があった。





「…なんだよ?」


「わりーんだけどよ、ちょっと勉強教えてくんね?」

「…あ?」




(冗談じゃねぇ。

 俺は早く帰りてーんだよ。)




「……断る」



そう一言返すと、山本は
より大きな声で、腰を低くし


「頼む!退部がかかってんだ!!」

と叫んだ。




「退部」という言葉に
俺は過敏に反応する。






「……退部?」


「今度のテストでいっこでも赤点とったら、退部しろって担任に言われちまってよ〜…」






────「退部」か。



俺は、こいつが退部になろーが
赤点とろーが
知ったこっちゃねーけど……



こいつにとって、野球は
すっげー大事なんだよな……



暫し、考えた結果───




「…しょーがねーな…」



小さな声でそう呟くと
山本の表情が、急に明るくなり



「サンキュー獄寺!

 じゃあ、教室で待っててくれ!

 顧問に部活休むって言ってくる!」




俺に、そう言ったかと思うと
すぐに背を向け、走っていった。




俺は教室で、山本の帰りを
従順に待っている自分に呆れた。



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