企画もの

□絡み合う視線
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赤也は案外人当たりの良い性格をしていると思う。
一度キレてしまうとなかなか手がつけられなかったり、多少(…どころじゃないか)我が儘なところもあるが、基本的には誰とも仲良くできる。

それはもちろん長所でもあるのだけれど。


(あ、赤也だ)


移動教室の途中。偶然通りかかった2年生の教室から聞き覚えのある声がすると思ったら、赤也がクラスメイトと談笑している姿が見えた。
話している内容まではわからないが、盛り上がっているようで教室の外まで笑い声が聞こえてくる。


(ふーん…楽しそうじゃん)


普段見ている姿とはまた違う一面を見せる赤也。部活では3年のレギュラー陣と過ごすことがほとんどだし、俺…自分で言うのもなんだが、恋人?と一緒にいる時は心なしか甘えてくる面もある。
だからなのか、こうやって同学年と騒いでいる姿がとても新鮮に感じた。


「…なにやってんだ、俺」


ふと時計を見るともうすぐ授業が始まる時間で、とりあえずその場を離れようとする。
その時、一際トーンの高い声が教室に響いた。


「ていうかさ、赤也くんって案外モテるっしょ。私彼女になってもいいなー」

「ははっ!何言ってんだよ」

「え、ちょっとやだ痛いー!」


さりげなく体を寄せてきた女子の背中を軽く叩く赤也。そのやりとりを見ていた周りも賑やかに笑っていて、明らかに冗談だというのはわかるのだけれど。

…何だか、面白くない。


(……なんだよ)

胸のあたりがもやもやする。これ以上赤也の楽しそうな姿を見たくなくて、視線を外すと目的地へと足を向ける。とりあえず今はさっさとこの場を立ち去りたかった。
今までテニスの試合で女子から声援をおくられている姿だって何度も見ているし、赤也に男女問わず友人が多いことも知っているはずなのに…今さらこんなことで動揺するなんて俺はどうかしているに違いない。


「あ!あの人テニス部の丸井先輩だよね」


歩き出した瞬間どこからか名前を呼ばれてハッと我に返る。思わず声のした教室へと視線を戻すと、赤也とばっちり目があってしまった。


「あれ、丸井先輩?」

「…ッ!!」


キーンコーンカーンコーン…


同時に授業の開始を知らせるチャイムが鳴り響く。
気が付くと俺は、移動教室とは別方向に駆け出していた。



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