企画もの
□君の場所まであと一歩
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ひらり、ひらり。
空に舞う白い結晶は、瞬く間に見慣れた風景を覆い隠していく。
***
「何をしている?」
「ん、見てわからない?」
さく、さく、と一面真っ白だったテニスコートに真新しい足跡がつけられていく。いつもより早い時間だからか、周囲に人は見当たらない。
「綺麗に積もっている雪を見るとさ、一番に足跡をつけなくならないか?」
満面の笑みでこちらを向く幸村に一瞬で目を奪われてしまい、真田はごまかすように咳払いをした。
無邪気とでも言うべきなのか、こんな表情は久しぶりに見た気がする。
「ほら、真田も来いよ」
「いや、俺は…」
「いいから早く!」
渋っている真田を余所に、幸村はコートの中央へと足を進めてしまう。そろそろ身体も冷えてきた頃だろうし、もう少ししたら他の生徒達も登校して来るだろう。そう考え、教室へ向かうよう促そうと真田もコートに足を踏み入れた。
瞬間、幸村の姿が不自然に傾いた。
「…っうわ!?」
「ッ幸村!?」
突然目の前でぐらり、と傾いた幸村の体を咄嗟に駆け寄って受け止める。単純に足を滑らせたのか、もしやまた具合が悪くなったのかーーと不安を抱きながら顔を覗き込むと、幸村はまるで悪戯を成功させた子供のように得意気な笑顔を浮かべていた。
「…びっくりした?」
その表情からは、先程倒れかけたのが嘘であるということは一目瞭然で。
「…あまり突拍子もないことをするな。心臓に悪い」
思わず安堵と呆れの混ざったため息を落とし、体を離そうとすると幸村の手が真田のそれを捕らえた。
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