*treasure*

□聞こえない5月の日
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「今日水曜じゃん…!」




校門で待っていても、なかなか出てこないから意を決してテニスコートへと足を向けたが、そこには薄緑の帽子と作業着をきた人たちがほつれたネットを修理しているだけだった。
何も考えずに神奈川を飛び出した自分を殴りたい衝動に駆られながら、とぼとぼと校門を目指して足を動かす。


このまま家に行ってみようか。でもいなかったら困るしなぁ。
あの気の良いお母さんなら絶対に部屋で待っててと無理やり中へと入れてくれるだろう。
あの家族はジロー同様みんなマイペースだ。


豪勢な部室の前を通りかかる。
中等部の時もまぁ素晴らしい建物だったけれど、高等部の部室はこれは何だと思うほどにすごかった。
そこから20歩ぐらい歩いた時、がちゃんと後ろから音がした。
つられて振り向くと、探していた人物とばっちりと目が合う。

…すぐ後ろにジローの肩を抱いた日吉ともばっちり目があった。




「ま、丸井くん…?」





ぷちんとブン太の中で何かが切れた。
ずかすがとジローと日吉に向かって大股で歩いていく。
目の前で立ち止まると、がしっとジローの両腕を掴んで、日吉の手の中からジローを自分の腕の中へと引っ張り出した。
ぱちぱちと目を瞬きさせる2人を余所に、ブン太はきっと自分より背の高い日吉を睨み付ける。




「てめぇ誰に許可とってジローにべたべたしてんだよきのこ!」


「(うぜ…!)何で芥川さんに触るのに許可がいるんですか。別れたせいで頭に虫でも沸いてんじゃないですか?」


「んだと!?つか何で別れたとか知ってんだよ!?」


「あぁ、ほんとに別れてたんですか。きっとかっとなって言っただけだろうって芥川さんと話してたのに」


「なっ…」
「だそうですよ。芥川さん。」


「……」




ぼろぼろぼろ。
ジローの目から一気に涙が溢れ出した。ブン太は失言にまた自分を殴り飛ばしたい衝動にかられる。
おどおどするブン太に溜め息をつき、付き合ってられるかよとあからさまに面倒くさそうな顔をして日吉は現場を放棄した。
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