*treasure*
□聞こえない5月の日
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「そんな俺が信じられないなら別れるか!?いい加減面倒くせぇんだよお前!」
しまったと慌てて口を塞いでも遅く、ジローは唖然とした顔のままほろりと涙を落とした。
「そうだね。今まで、本当にごめんね」消え入りそうな声でそう言うと、すぐ後ろにあった角を曲がって消えてゆく。
…終わっ、た?現実感のない出来事に、ブン太は今にも砂になって吹き飛んでいきそうな思いになった。
「普通に考えてな?100%お前さんが悪いじゃろ」
ぐさり。ブン太の頭に仁王の言葉が深々と突き刺さった。
どよどよと誰から見ても何かあったなと分かるほどのマイナスオーラを醸し出すブン太を、引きずるように裏庭へ連れてきたは良かったものの、あまりにもブン太に非が有りすぎたものだから仁王は構ってやったことを後悔した。
嘘だ嘘だとこの一週間ブン太は現実逃避のような譫言(実際に現実逃避なのだが)を馬鹿の一つ覚えのように繰り返していたものの、あのジローから全く連絡が来ないことにやっと気付き、今まで以上の暗い空気をまき散らしている。
迷惑極まりないと幸村は釘バット片手に笑顔でぼやいていた。(隣りで柳生と赤也が慌てていた)
「知っとるけど、それ分かったうえでブンちゃんは芥川と付き合っとんやろ」
「そうだけど!その原因っていうのがさ、俺が前他校の試験受けてる時に、携帯の電源入ってなかったからとか言うんだぜ!?お前は俺の母親かっつーの!」
「ピヨ。母親にでも真っ昼間からそんなんで激怒されたら腹立つぜよ」
「だろぃ!?だから信用しなさすぎだって話になって、んでムカついて…」
「まぁ自由奔放な丸井を縛ろうとする芥川もどうかとは思うが、そこで別れようとかぶつけるお前さんが7割型悪い」
「それは分かってるけどさあぁ…」
遠くで授業の始まりを知らせる音がする。次の授業は現国であまり好きじゃないし、このまま丸井の泣き言に付き合ってやるかと決めた。
そんなにへこむぐらい好きなら、さっさと謝りに行きゃいいのに。
そう思ったが、氷帝の跡部と張り合うぐらいにプライドが高いブン太が、わざわざ東京までしかも自分から謝りに行くなんて考えられなかった。