novel
□ある夏の日に
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「暑い」
「そりゃあ飛影、夏ですから」
ベッドの上で背中合わせに座る。蔵馬が本へと目を落としていると、背後から不機嫌そうな声が発せられた。
「魔界はこんなに暑くないぞ」
「魔界と地球は違いますよ。特に日本は四季がはっきりとしていますから、夏は暑いものなんです」
そう蔵馬が説明しても飛影の不機嫌そうな表情は変わらない。しかし残念ながら蔵馬の部屋にクーラーは無く、先程からこの暑い環境をどうする事もできずにいた。
「飛影、暑いなら離れて座ったほうがいいんじゃないですか?」
普通に考えてくっついていたほうが暑いに決まっている。そう思い蔵馬が読みかけの本を持ってベッドを降りようとすると、ぐっと腕を引っ張られた。安定を失った蔵馬の体は再びベッドの上へ戻される。
「飛影?」
蔵馬が驚いて見つめると、飛影は顔をフイと背けたまま答えた。
「別にいい、このままで」
「え、」
どうしたのですか、と口から出かけた言葉を思わず飲み込む。視線の先には耳まで紅く染めた恋人の後ろ姿。
(全く不器用なんだから…)
「……何か言ったか」
「いいえ、何も」
フッと笑顔を浮かべて再び飛影と背中合わせに座る。うっすらと汗ばんだ彼の背中は、先程よりも心なしか熱く感じた。
「暑いですね」
「あぁ…」
たまにはこんな日があってもいい。
end.