novel
□特別なキモチ。
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俺は誰かに指図されるのは嫌いだ。
今まで自分の思うように行動してきたし、勿論これからもそれを変えるつもりはない。
…コイツの前以外では。
「もう帰っちゃうんですか?」
いつものように傷の手当てをしてもらい、帰ろうと窓へ手をかけた瞬間に背後から投げかけられる声。
「…あぁ」
「もう少しゆっくりしていきませんか?特に急ぎの用などが無ければ」
そう言っていつもの柔らかい微笑みを見せる。確かに急ぎの用はないが、ここは居心地が良過ぎるため思わず長居してしまいそうになるから困るのだ。
「……」
「魔界に戻ったら、次いつこちらへ来られるかわかりませんし…」
「……」
「…どうですか?」
やはり駄目だ。
そういう風に言われてしまえば、俺が勝てる訳がない。
「…あと少しだけだ」
観念してベッドへ座ると、蔵馬は本当に嬉しそうな笑顔を見せた。
「今、お茶でも用意してくるので。待ってて下さいね」
急いで階段を降りて行く姿を見ながら、俺は一人ため息をつく。
「何やってんだ、俺は…」
蔵馬の前では明らかに普段と違う自分の思考回路に、思わず自嘲的な笑いが込み上げる。
しかし、そんな自分も悪くないと思ってしまうのも事実。
「俺も甘くなったものだな」
とりあえず今夜は帰れないだろう、と一人心の中で呟くのであった。
end.