青学の教室にて

□私の星
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部活の帰り道。
私にとっては特別で、かけがえの無い時間。




「亜衣里ちゃん。」

「はい? 何ですか、大石先輩。」

「・・・いや、何でも無いんだ。」




私が見上げると、困ったように視線を逸らす大石先輩。




「そうなんですか。何か気になることがあったらおっしゃって下さいね?」

「気になること、というか・・・。」




先輩と付き合い始めてまだそんなに時間は経っていなくとも、少し様子がおかしいことぐらいは分かる。
何に悩んでいるのか、何を考えているのか、聞きたいと思うのになかなか言葉にならない。
・・・・・・私が聞いてはいけない事なのかもしれないから。








お互いに交わす言葉を探す時間はほんの数十秒なはずなのに、私にとっては何時間にも感じられた。




「あの・・亜衣里ちゃん。」

「は、はい!?」




やがて開かれた先輩の声に、思わず声がうわずってしまう。
恥ずかしくて口を押さえる私を見て、柔らかく笑う彼。




「驚かせてしまったかな? ごめんね。」

「いえ! そんな・・・気にしないで下さい。」




私はブンブンと音がするかと思うくらいに両手を振って否定した。




「今日は何の日か、知ってる?」

「えっ?」

「今日は、ある二人にとっては一年の中で大切な日なんだって。」




今日は7月7日。七夕だ。




「ほら、見て。」




そう言って空を仰いだ彼を真似て見上げると、空にはたくさんの星が輝いていた。




「うわぁ・・こんなに明るいところでも星って見えるんですね! でも、たくさんあり過ぎてどれが織姫様と彦星様なんだか分からないですね。」




先輩に笑って見せると、微笑み返してくれた。
そして、彼の手が私の手と重なった。先輩の手が私の手を導いていく。




「・・!」

「ほら、あそこに他の星よりもひときわ強く輝く星があるだろう? あれがベガ・・・織姫で、あっちにあるのが・・・・・・・。」




先輩が分かりやすく説明してくれているのに、重なる手から・・肩に置かれたもう一方の手から感じる先輩のぬくもりが私をドキドキさせて、頭に入ってこない。




「ね、綺麗だろう?」

「へ!? ・・そ、そうですね!!」

「ああ、ごめんね。星には興味がなかったかな? つまらなかったよな。」

「そうじゃないんです!! ただ・・・。」




私がいまだに重なっている手の方へ視線を向けると、先輩の視線もそっちに向いてだんだん頬が赤くなっていく。




「わー!? っと、ご、ごめん!!」




勢いよく体を離して謝り続ける先輩。




「あの・・!」




そう何度も謝られると、何だか少し複雑。
だって・・・。




「私、嫌なわけじゃないんです。少し驚いて、ドキドキして、嬉しかったんです・・。」

「えっ・・。」




・・・絶対引かれた。
つい出てしまった言葉はもう先輩の耳に届いてしまった。私、きっと変な子だって思われちゃったよね。




「亜衣里・・ちゃん。」




先輩の声、驚いていた。
やっぱり引かれて・・・。




「良かった。」

「あの・・先輩?」

「てっきり、嫌われてしまったのかと思った。」

「そんなことあるはずないです!!」

「ありがとう・・。」




ゆっくりと彼は近づいてきて、もう一度私の両手はぬくもりに包まれた。




「本当は、君にずっと触れたかった。でも、もし拒絶されたらと考えると耐えられなかったんだ。触れたら消えてしまいそうで・・・。」

「私は消えたりなんかしませんよ。そんな繊細じゃありません。先輩が私を遠ざけようとしても、離れてあげませんから。」

「君には敵わないな。」




彼は優しく微笑んだ。
私はそっと抱き寄せられると、彼の腕の中に閉じ込められた。
逃げられないけど、それでいい。




「俺の方こそ、君を手放すつもりは無いよ。亜衣里ちゃん、ずっとそばにいてくれないか?」




彼の真っ直ぐな瞳が夜空に散りばめられたどの星よりも綺麗で、吸い込まれそう。
私だけを見ていてくれる彼は、私の永遠の彦星様。




「もちろんです。」




私は、貴方だけの織姫になりたいのです。






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