音楽練習棟

□デュエット・ラヴ?
1ページ/3ページ

壬生大学交響楽団…――

そこには、数多くの慣例となっているイベントがある。
その中でも最も盛り上がるものの一つが《新人アンサンブルコンテスト》。

夏合宿の前夜祭的に行われるそれは、新たに入団した一年生が同パートで二人一組のデュエットを組み、演奏する。
曲選びも自分達。
本番では上回生が審査員となり、入賞者には豪華賞品(多分)あり、というものである。

一年生にとってはオケに入って初めて楽譜を貰い誰かと音を合わせる場であり、言わばこれから本格的に全体で曲を作っていく前の重要なステップとなっている。


「……という事だ。練習時間も考えるとそろそろペアを決めておいた方が良い時期でな。初心者はいきなり曲と言われても戸惑うだろうが、そこは経験者がフォローしてやってくれ。ペアの決め方も任せるから」

パート内の人間ともようやく仲良くなってきた頃。
バイオリンの新入生達にパートリーダーである辰伶はこう告げた。

いよいよかと期待に胸を膨らませたり、初めての曲に不安になったり、と一年生も様々な心境だ。

その一年生の輪の中に、時人とアキラもいた。

「デュエットかぁ…」
「そう言えば話だけは聞いた事ありましたね」

さりげなく話の乗ってきたアキラを時人は睨みつけた。
彼女は入部した当初から何故かアキラが気に入らなかった。
どちらかと言えば幼い頃からバイオリンを習い「こういうのは時間がモノを言う」と考えている時人にとって、大学に入ってから初めて楽器を手に取り、その「時間」を埋めるべく努力しているアキラの姿は気に触って仕方なかったのだ。
一方のアキラも、いちいち突っかかってくる時人を適当にあしらいつつ、半ば売り言葉に買い言葉のような状態になっていた。

「いいか、絶対お前とは組まないからな!」
「誰も貴女に組んで欲しいとは言っていないでしょう?」
「煩いッ!先に忠告してやっといただけだよ」
「それはご丁寧にありがとうございます」
「何だよその言い方、ムカつくんだよ!!」

この日もいつもの調子で言い争いを始めた二人を尻目に、その他の一年ズはペア決めの方法などをさっさと話しあっていた。
この二人の扱いには慣れたものである。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ