捧げ物

□星は光りぬ
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「着替えはこれくらいで足りるし、薬も入れたし…よし、完璧!」

時人は、この二、三日間繰り返していたことを今日も行った。

「ちょっとコレ、芸術品じゃない!?」

誰もいない部屋のなかで独り呟く。
その満足そうな視線の先にある“芸術品”とは、きっちりと荷物の詰められたキャリーケースだ。

大学に入って初めての夏休み。
前半は、実家に帰りもしたが、獣医学科の友人やオケ仲間と気ままに遊んだり、自主練に行ったりして過ごした。
そして夏休みも折り返し、明日から時人にとって最大の行事が始まる。

――4白5日の山籠り強化合宿――

今まで部活の合宿に行った経験のない時人はとにかく楽しみで楽しみで、ここ二週間くらい毎日のように「もうすぐ合宿だね」とはしゃいでは、合宿など慣れている運動部出身の同回生に呆れられ続けていた。


待って待った合宿前夜。

何度も中身を確認したキャリーケースを閉め、《合宿のしおり♪》と書かれた小冊子のページを捲る。
そして、班員名簿のページで手を止めた。
同じ班、自分の名前の上にあるのは、大切な人の名前だった。

(アキラと班一緒なんて、僕すっごいツイてるよね)

自然と頬が緩み、視線が隣の部屋との壁へと向けられる。
そう…――
偶然にも、アキラは同じマンションの、しかも時人の隣室に住んでいる。
入部当初はかなり険悪ムードな二人だったが、ぶつかり合いを繰り返すうちに、喧嘩相手は本音を言い合える相手になり、やがて唯一無二の親友になっていった。
勿論言い合いがなくなった訳ではないが、いわゆる「何だかんだ言って仲が良い」という状態だった。
特に時人にとって、アキラは今ではすっかり“大切な人”である。
その中に淡い恋愛感情が含まれているのには気付いていないようだったが…。

「明日早いしそろそろ寝なくっちゃ」

日付が変わりそうな時間を示す時計に目を遣り、そそくさとベッドに潜り込んだ。
しかし、アキラと班が一緒になったことで楽しみが倍増していたためなかなか寝付けず、結局漸く眠りについたのはそれから2時間が経過した頃だった。




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