Veronica.

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心臓が早鐘の如く脈打っていた。
浅く過呼吸ぎみな呼吸。
ガタガタと震える杖先。
どうしよう、どうすれば、同じ様な二つの問いがぐるぐると頭を巡る。

殺せ、とヴォルデモートさんは言った。

そうすればホークラックスが作れる。
止まった時間の中で一緒にいられる。
Avada Kdavra.
唱えれば一瞬で全てが終わる。
生贄は私とは何の関係もない見ず知らずのマグル。
私はたったの数秒で、切望していた永遠が手に入るのだ。


──不特定多数の犠牲者よりも、私はヴォルデモートさんただ一人を選ぶ。


それはかつてひっそりと胸に秘めた思い。
私にはもう彼を殺すなんて出来ない。
それが愛なのか保身なのか、未だに答えは出ないけれど。
私は私の為に多くの人々から目をそらす事を決めた。
ヴォルデモートさんによって失われる命を見殺しにする、その覚悟を。


──殺せば、もう戻れない。
今更じゃない。
──死にたくない。
この人が死ねば私は生きられる。
──怖い。
大丈夫、すぐ終わる。
──怖い、
何も失いたくないのに…。


ゆっくりと杖を持ち上げれば男性の顔が歪んだ。
対照的にヴォルデモートさんは満足げに微笑む。

この世界で私を庇護してくれた人。
たくさんのものを与えてくれた人。
彼がいるならば、私はその道が闇でも厭わない。
この世界に来て一度全てを失った私には躊躇いなど皆無。
人だって、殺せる。


「ッ……せん…」
「……何?」

「…で、きません…!」





…そう、思っていた。



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