Alice.

□04
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人の間を縫うようにして髪に赤いリボンを結わえた少女は歩いていく。
俺と近藤はその後を無言で追いながら、先輩の言葉の意味を痛感していた。

『でも普通の人はアリスをすぐ見失っちゃう』

彼女は“見失いやすい”のだ。
極端に気配が薄いと言っても良い。
よく見ていないと次の瞬間には人に紛れて分からなくなる。
今のところ何とかはぐれていないのは、偏にちらちらと視界を掠めるリボンのおかげであった。

「…なあ、村神」
「なんだ」

視線は少女に向けたまま近藤の呼びかけに応える。

「今朝、話したよな…その、陛下が消えた後、稜子と一緒に闇の中をひたすら走り回ったって」
「ああ…」
「その時さ、助けてくれたのがあの子なんだ。いや、正直今でも助けてくれたのかどうか疑問なんだけど…あの子の言うとおりの道を走ったら戻れたから、多分そうなんだと思う」

“見知らぬ少女に遭った"。
今朝の近藤の話を忘れていたわけではない。
しかしそこまで重要視していないのも事実だった。
その少女が何者か分からない以上、敵か味方か、もっと言えば空目を連れ去ったあやめと“同類”か判断できなかったからだ。
ならば現時点では何の対処も仕様がない。
その上、不思議なことに日下部はその見知らぬ少女について全く覚えていなかった。
もちろん近藤を疑っているという意味ではない。
日下部は少女に出会う前には既に茫然自失状態にあったそうなので、記憶の欠如は否めないのだが…。
“警戒しておくに留まる”
それが話し合いで出た結果だった。

「…名前、何て言うのかな。十叶先輩はアリスちゃんって呼んでたけど」
「…というよりも、うちの生徒なのか?」
「気になる?」
「うわっ!!」

前触れもなく視界いっぱいに広がった白ウサギのぬいぐるみに、近藤が悲鳴を上げた。

「ねえ、あなた達はお友達を連れ戻したいんでしょう?」
「う…うん」
「なら、駄目だよ。ちゃあんと見てないと。目を離した隙に“神隠し”は現れるんだから」

忠告にしては曖昧で、それはあくまで何気ない世間話のように少女は語る。
つまりは、余所見をせずに付いてこいと言うことだろうか?
頼んでいるのはこちらだが、見ず知らずの少女にまで主導権を握られるのは少し癪だなと思った。

「結構歩いたが…まだ着かないのか?」
「ううん、もう少しだよ。疲れちゃった?」
「…いや、」

皮肉のつもりが逆に気遣われてしまい思わずたじろぐ。
何だかばつが悪くて視線を逸らした。
慌ててまた赤いリボンを注視したけれど。

「…私もね、“こっち”に居なくなったお友達を“あっち”から連れ戻した事があるんだよ」

先程よりも幾分か歩くペースを落として少女が話し始める。
赤いリボンに“声”という目印が加わり、少女の見つけやすさが格段に上がった気がした。



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