Alice.

□02
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その時俺は“誰だろう”とは思わなかった。

しみしみ、
しみしみ、
近付いてくる無数の“それら"。
のた打ち絡み合い、それでも手を伸ばしてくる異形の肉の塊達。
…だが正直。
まだこっちの方が人間だと思った程だ。
視覚的には化け物だろうと、“それら”の気配は人そのものだったのだから。
それくらい彼女の気配は希薄で、浮き世離れしていて、だから俺は…――。


***

うちの学校には魔王陛下がいる。
空目恭一。
高校二年生。比較的華奢ではあるが男で、文芸部の部員。
いつも黒ずくめの服装に身を包み、綺麗な顔をしているのにそれを台無しにするほど悪い目つき。
頭脳明晰。中でもオカルトや異常心理などの所謂『黒い』知識に関しては右にでる者はいない。
社交性は皆無。そして筋金入りの『恋愛否定論者』。
これらの“普通”でないことが魔王陛下を魔王陛下たらしめるあだ名の由来だ。
…まあ、変人と同義でもあるのだけれど。

そんな陛下に彼女が出来たというニュースは、俺を含めた文芸部のメンバーを震撼させた。
“あの”空目を恋愛に目覚めさせたのだから余程有能で聡明な女なのかと一同想像していたのだが、実際に紹介を受けたのはどこかアンバランスでおよそ釣り合いそうに無いような子。
確かに可愛い。
しかしやはり、彼女と言うにはあまりに不自然で…釣り合いが取れていないとしか思えなかった。

不可解な点はそれだけではない。
陛下はその子を“あやめ”と呼んでいたけれど、名字や出身、馴れ初めなどを聞くと途端にはぐらかされてしまって。
結局、分かったのは容姿と名前だけ。

俺より頭も良くて頼れる木戸野や村神は、傍目にもおかしな二人を“警戒しろ”と言った。
特にあやめちゃんの方を。
妬みや僻みでそんな事を口にする奴らではないことはよく知っている。
だから、考え過ぎだろうと稜子と共に楽観視しつつも、どこかでその通りだと頷く自分が存在しているのも確かだった。
そして多分、

「…ねぇ、あと尾けてみよっか」

放課後に偶然見かけた陛下とあやめちゃん。
稜子の提案に抵抗なく頷いたのも、半ば運命付けられた当然の成り行きだったんだ。



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