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□月影01
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己の境遇を嘆いたことはただの一度もなかった。
俺の腹にバケモノがいることは紛れもない事実であって、泣いて懇願したところで何かが変わる訳じゃない。
神様とやらの存在なんざ露ほども信じてなどいないが、どうしたって抗えないモノが存在することは知っている。
人生なんてそんなもんだと諦めにも似た感情を抱いたのは自我が芽生えて程なくしてだった。
そして多分、俺同様バケモノをその脳に宿し生まれたあいつも。

生まれてすぐに両親を失った俺は三代目火影の庇護のもと育てられた。
口五月蝿ェ里の上役達もこの時ばかりは反対しなかっただろう。
俺が死んで再びバケモノが世に出るなんて事になったら、困るのは他でもない奴ら。
三代目火影としても里を危険に晒すわけにはいかないだろうから俺を生かした。
…内心がどうであれ。

だがあのジジィは俺に憎しみの目を向けたりしなかった。
それどころか、渋る上役を押さえ込み、俺に忍びとして生きるための術を叩き込んだ。
三歳やそこらの年端もいかぬ餓鬼に容赦なく修行を強いるジジィは人道的に間違っているのかもしれない。
しかし俺はバケモノだ。
先に待ち受ける未来が安穏としたものじゃないことは明白。
火影直々の厳しい修行と、何よりバケモノとしての力もあり五歳で異例の暗部入りを果たした時、力は武器なのだと知った。
感謝こそすれ恨みなどしない。
それをジジィに告げれば何故か悲しそうにしていたけれど。

暗部入りを契機に俺は火影邸を出た。
勿論ジジィに引き留められたが、これ以上俺のことで迷惑はかけたくなかった。
安い賃貸のぼろアパートに一人暮らしをするに当たり、突きつけられた必要不可欠な条件。
それは仮面を被って生活すること。
暗部の俺をひた隠し、なんの力もない無害で哀れな俺を演じる。
そうでなければ里の人間は力を与えた火影を非難することは必至。
バケモノだが無力であれば俺は嫌悪の対象で済む。
しかしバケモノで力を持った俺ならば、向けられる感情は嫌悪ではなく畏怖に変わる。
国や里なんざどうなろうが構いやしないが、俺は俺であることを許し庇護してくれたジジィだけは護りたい。
だから里の人間からの一方的な暴行や不当な差別も無言で耐えるのだ。


「狐邑、任務じゃ」
「…ああ」

幼い体を青年のそれに変化させ、暗部の狐邑(コムラ)として立ち上がった。
ジジィから任務の詳細を聞き部屋を出れば、そこには見慣れたあいつの姿。

「今回もお前とかよ、深鹿」
「毎回毎回めんどくせぇことにどっかの誰かが単独でつっ走るからだろバァカ。俺以外の仲間とろくに協力しねぇくせによく言うぜ」

IQ200以上という類い希なる頭脳を持つ深鹿(ミロク)もまた、その異端さをバケモノと称される。
暗部は秘密主義だ。
本名ではなく暗部名で呼び合うし、正体など気にしない。
けれど俺達はお互いを知っている。
今は変化しているが実は同い年の餓鬼で、バケモノで、ジジィに救われた。
だから俺は深鹿だけに背中を預けられるし、深鹿も同様だと自負している。

「作戦は移動しながら話す。さっさと終わらせるぞ」
「了解」

そして今日も今日とて闇に紛れて生きていく。
裏では暗部として暗躍し、表では無知で無力で哀れなバケモノとして。

俺の名はうずまきナルト。
この身に九尾を宿す、化け狐だ。





01.狐邑





こんな日々がずっと続くのだと思っていた。
無彩色の世界、無感動な心。
ジジィと深鹿以外に無関心な俺はまるで予期していなかった。
どうしたって抗えないモノを、知っていたのに。



(時間、境遇、…運命。人生なんてそんなもんだ)


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