Veronica.

□07
1ページ/2ページ


***様とはぐれてしまった。
我が君よりあれほど仰せつかっていたのに。

慌てて***様が流されていった方向を見るが、その姿はどこにもない。
冷や水を浴びせられたかのよう、とはまさにこのこと。
心を支配する不安に、らしくもなく一瞬真っ白になってしまった。

「………」

次に湧き上がってきたのは苛立ちにも似た感情。
このまま一人で屋敷に帰ることなど出来ないし、我が君にこの事を知られたらと思うと…。(考えたくもない)

僕が、罰を受ける?
杖選びでさんざん待たされた挙げ句、不可抗力ではぐれたのに?

全くもって冗談じゃない。
***様が一人でダイアゴン横丁をさまよい歩こうが一向に構わないけれど、僕が被害を被るのだけは断固阻止しなければ。
狡猾?
何とでも言え。

見つけ出した暁には一言嫌味を言ってやらねば気が済まない。
舌打ち一つ落として、僕は***様を探し始めた。

苛立ちとは別の感情には、気付かないふりをして。



***



ノクターン横丁から無事ダイアゴン横丁には出た。
さっき通り過ぎたグリンゴッツを引き返し、とりあえずオリバンダー翁の店までの道を辿る。

「***様、いい加減になさってください!」

…何故かアブラクサスさんが着いてきたけれど。

「ウィルクスくんを見つけるまでは、何があっても帰りません」
「………」

ちらり、振り返れば非常に腹立たしげなアブラクサスさん。
そこに今まであった冷たい瞳はない。
当然だろう、
その気になればどうとでも出来ると思っていた私が、殊の外反抗的だったのだから。(ハゲ、なんて言われたことないだろうなぁ)(貴族の御子息様だし)

私としてもいけ好かないあの目をどうにか出来たから、アブラクサスさんの言うことを素直に聞く気はある。
…ウィルクスくん抜きで屋敷に帰る以外で、だけど。

「…もうノクターン横丁には行きませんから、私に構わずどうか御用を済ませてきてください」
「***様を一人には出来ません」
「アブラクサスさんとは会わなかったことにしておきます」
「なりません」
「………(頑固…)」

この堅実さはウィルクスくんに似通うところがあるよなぁ、と内心溜め息を吐いた。


「…ひとつ、聞いてもよろしいですか」

探し始めて暫くして。
ずっと黙り込んでいたアブラクサスさんが口を開く。

「***様は、我が君とどういった関係で?」

まるで死喰い人を代表するかのような質問。
ヴォルデモートさんが私を何と説明したのかは知らないが、どうやらこの様子では異世界云々の事は伝えていないらしい。
あまり勝手に喋ってヴォルデモートさんの立場を悪くするのもどうかと思ったので、何気ない風を装って当たり障りのない返事をする。

「扶養者と、被扶養者です」
「…それだけですか」
「あくまで私は、です。ヴォルデモートさんが何を思って何を考えているかなんて、私よりも貴方達の方が詳しいんじゃありませんか?」

するとアブラクサスさんは歪に口元を歪めて嘲笑った。

「我が君の心中を、我等には計り知ることなど出来ません」
「…そうなんですか?」
「ええ。あの方は学生時代からお変わりない。ただの後輩、そんな認識は初めてお会いした時から存在するはずがなかった」

本心が分からない人に、従順に仕えることができるか?
それは否だ。
畏怖や一時の気まぐれでは真の支配は得られない。
けれどヴォルデモートさんはそれを成し得、アブラクサスさんもまた従っている。

「なら、なんで…なんでアブラクサスさんは死喰い人に?」
「…我が君の持つ、底無しの闇。深く、誰もを捕らえて離さない。危険と分かっていながらも、心地良い憎悪」


闇に焦がれる者には、。


「逆らう・逃げるなんて選択肢、あの方の前では存在しないのですよ」



立ち止まった事に気付かない程、私はアブラクサスさんの言葉に聞き入っていた。

人は誰しも闇を持っている。
醜いとされる感情、許されない願い。

“闇の共有”

ヴォルデモートさんはこれを利用して死喰い人を束ねている。
もちろん、死喰い人みんながそうではないだろう。
中には恐怖心から従っている者や、周りに流されるまま傘下に入った者もいるのではないか。
だけどアブラクサスさんのように、真に闇を理解し、そしてそれを受け入れた人は違う。


後はただ、
深淵の底に沈むだけ。


次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ