Veronica.
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多くの人々がまばたきする間も惜しんで彼を見ていた。
暗く冷たい闇の中。
彼の後には血が残る。
“────!”
ひとつ、罵詈雑言と共に石が投げられた。
固唾を飲んで沈黙を保っていた群集から不意に破られた緊張感。
それはまるで波紋のように静かに広がり、第一投に続く石が次々と彼を襲う。
投げつけられる無数の悪意。
“─────!!”
がつり、
鈍い音をたてて、鋭く尖った石が彼の額を切り裂いた。
宙に舞う鮮血。
その時、
初めて彼が歩みを止める。
たくさんの顔が並ぶ中、ゆっくりと振り返った彼は迷わず一点を見据えた。
僅かに細められる深紅の瞳。
流れる血もそのままに、口元には微かに笑みすら浮かべている。
刹那、瞬く緑の閃光。
あっという間に摘み取られた命は今やただの物言わぬ骸。
再び静まり返った群集に囲まれて、彼はまた歩き出す。
転がる死体に見向きもしないで。
頬を伝う赤など気にも留めずに。
暗く冷たい闇の中。
彼の後には血が残る。