Veronica.

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「ジュリアちゃん、もしよかったらお庭の水まき頼んでも良いかしら?」
「あ、はい!」

柔らかい声に返事をして私は庭へ出る。
勝手知ったる人の家ならぬ勝手知ったるロミオさんの屋敷。
迷うことなく井戸へ向かった私は水を汲み上げると、柄杓で掬って庭に撒く。
杖が無い為にマグル式で行っているが、特に不便だとは感じない。
元々私は魔法とは縁のない生活の方が長いのだから。

水を撒きながら思うのはここ最近の暮らしについて。
さっき私を“ジュリアちゃん”と呼んだのはティスベさん。
初老の(と言っても彼女は若々しい)女性で、窓辺でロッキングチェアに揺られてレース編みが物凄く似合う素敵なご婦人。
ちなみに偽名である。
しかしそれよりも特筆すべきなのは、ティスベさんはロミオさんの奥さんだということ。
ロミオさんが既婚者だったのにも驚いたが、帰宅してすぐ、自分の旦那が年若い女の子とお茶して居るのを見たティスベさんの反応は忘れられそうにない。

『あらアナタ。随分可愛らしい隠し子がいらしたのね』

にこやかに一言。
そこに刺々しさや皮肉の色が一切含まれていないのがある意味凄い。
だがロミオさんも負けてはいなかった。

『何を言う。彼女は私の子ではなく妻だ。なあ、ジュリエット』
『ジュリエット?ならアナタがロミオとでも?冗談でもこの子が可哀想ですよ』
『…やれやれ』

…やっぱり、今思い返せば負けていたのかもしれない。
ロミオさんがやり込められるのを初めて目にした瞬間だった。

その後、大した説明もなくロミオさんから私の無期限滞在を聞いた奥さんは嫌な顔一つせずに微笑みながら歓迎してくれた。

『あなたがジュリエットで、この人がロミオなら…そうね、私はティスベにしようかしら。私達には子供がいないから、ジュリアちゃんが来てくれてとっても嬉しいわ』

夫婦揃って笑顔で偽名を名乗るとはただ者ではない。
けれども、こうして私の当面の生活は保証されたわけだ。
ティスベさんのお手伝いをしたり、毎日夕暮れ時にはロミオさんと近所を散歩する、平和で穏やかな日々。
ヴォルデモートさんの屋敷を出て21日目。
今日で三週間が経過していた。


***

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