戦国BASARA
□桜の舞い散る夜
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見事なものだと思った。
夜闇に自分の存在感を示すかの様に月明かりに照らされた桜の花びらがさんさんと散っている。
「…昼間の桜も良いが…夜のもいいかもしんねぇな…」
こんな時ぐらいは異国の言葉等を使いたくない。
月明かりの下で、自分と桜だけの姿。
ずっと見ていると、頭の中に過ぎる昔ながらの話。
何処から伝わったのか分からない話。
「満月には昔から魔力が宿る。桜の木の下には死体が眠る…」
この二つの話が組み合わせれば、一体どうなるのだろうかと…思ってしまう。
いや…偶然にも今夜は満月だ。
もしかしたら何かが起きるかもしれない。
そう思った自分に自嘲めいた笑みが出てくる。
「…全く、俺は一体何を考えてんだろうな…。…戦の疲れでも出てきてんのか…?」
なら、一時の間だけで良いのならば癒して差し上げましょうか?
「…っ!?誰だ!」
ぼやいた時、自分しかいないこの場で誰かの声が聞こえた。
辺りに気を巡らしても何かの気配もしない。
…おかしい。
ここで初めて気が付いた。
周りに何の音がしない事に。
風のそよめきも虫の鳴き声も…何も聞こえない。
聞こえるのは自分の息遣いと鼓動のみ。
そんなに怯えなくてもよろしくてよ…。ただ私は貴方様…伊達政宗様の疲れを癒して差し上げたいだけですから…。
また声が聞こえる。
心地良いまどろみに包まれるかの様な声…。
「テメェは誰だ!?姿を現しやがれ!」
政宗は意識を奪われそうで、いつにもなく声をあらげて尋ねた。
何故俺の名前を知っている?
何故俺しかいないのに声が聞こえる?
困惑しながらも更に目を凝らす。
私は名も無いただの木。ですが、貴方方様人間は私を桜と呼びます。
「桜、だと…?」
自分の目に写る前の桜を見る。
何も変なところは無い普通の桜の木に見えた。
俺が変な事を考えちまったから…幻聴が聞こえちまったのか?
ええ…そうです。私は貴方様に最期を看取られる桜の木。お礼に癒して差し上げたいのです。
声に反応して政宗の周りを桜の華が緩やかに回る。
「どうやら…幻聴ってわけでも無ぇようだ…。にしても、最期を看取られるってどういう事だ?」