APH、pkmn…

□軽はずみで唇あわせ
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階段から屋上に続く鉄の扉。
ドアノブに触れると外気で冷やされた鉄がキン、と掌の皮膚を刺激した。外に出ると肌を刺す冷たい風が静かに私を包み、空には太陽が西側に傾き冬特有の虹色のグラデーションを作っていた。


「凌統、」


肘くらいの高さの柵に体を預け、寄りかかって空を眺めていた凌統を見つけ隣に立つと、彼はやっと顔をこちらに向けた。


「空、今一番綺麗だよ」

「うん。あれ、甘寧は?」

「今日は来ないってさ。」

「そっか。」


私も凌統と同じ格好で柵に寄りかかり空を仰ぐ。
太陽も沈みかけてきた頃、一際冷たい風が私たちの間を吹き抜け、思わず身震いした。


「寒い?」

「うん、もうちょっと着てくれば良かった」

「温めてあげよっか、」


そう言うと凌統は私の背後に回り後ろからぎゅ、と私を抱き締める。優しくて温かい。


「ふは、ぬくい」

「だろ」

「甘寧が見たら誤解しちゃうね」

「誤解させようぜ、ていうか、アイツの驚いた顔見たい」

「あ、それは私も見たいかも」


ひとしきり二人で笑いあうと、寒さもだいぶやわらいだ。それでも凌統はぴったりくっついていたので、「もう平気だよ」と声をかけてみると凌統は「俺はまだ寒いの」とさらに腕の力が強くする。まあいいや、あったかいし。私はくす、と笑った。



「…私ねー、凌統と甘寧は、好きにならない自信があるんだ」

「へえ、言ってくれるねぇ…。甘寧はともかく、俺にも惚れない自信があるのかい、」

「うん」


ふたりは好き。大好き。なあんにも考えずにはしゃいで、笑えて、心をあたたかくしてくれる大切なひとたち。私たちはこれからもずうっと3人でバカやっていけると思う。それぞれ好きな人ができて、いつかは結婚して、子供ができて。それで、家族ぐるみで集まって食事をしたり、色んな所に旅行に行ったりするんだ。こんなこと言ったらふたりに笑われるかもしれないけど、これがばかな私の夢。だから、私は凌統と甘寧を好きにはならないの。


「ふうん、…じゃあさ、試してみたいって言ったら、どうする?」

「試す?」

「そう。手っ取り早く、そうだな、…キスでもしちゃう?」


まさか凌統にキスしようだなんて言われる日がこようとは。きっと冗談だろうと思い、「いいんじゃない?まあ無理だと思うけどね。」と私は凌統の真似をして少し挑発的に言ってのけた。それを聞いた凌統は笑いながら(目は笑っていなかった)私の顎に指をかけて、



「後悔しても知らないから」



頭上から凌統の声がして振り返ったら私の唇に凌統の唇が触れた。ああしまった。遠くの方で後悔が警報のように訴えるけれどもう手遅れ。
ゆっくりと角度を変え啄むように押し当てられる唇がびっくりするくらい優しくて、洒落にならないくらい動揺している。


目を開けたときに映った凌統は見たことのないくらい切なそうな表情をしていて、どうしようもなく胸を締め付けられる。


「どうよ…、」

「…ん、凌統、キス、上手いんだね、」


私は顔を背けた。



「なんか、冗談でも恥ずかしいや、…私、先に校門で待ってる。」


ダメだ。今のままじゃあ、うまく笑えない。
私は逃げるように屋上から飛び出し、1階までの階段を駆け降りた。

指先で唇にキスの余韻が残っている。思い出してしまう。少し強引で、不器用な凌統の優しさ。求めてしまう。いや、もう求めているのだろうか。

ああ、なんて脆いんだろう。たった一回のキスで、描いた夢が綻びはじめているなんて。私は思わず自分自身を嘲笑した。言い聞かせるんだ。胸が痛いのは走ったから。顔が赤いのは夕日の所為。あれ、なんで私泣いてるんだろう。





軽はずみで唇あわせ、
酷いくらい苦くて泣けた






(俺は本気だっての…)
20120523.

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