リリカルなのは《短編》
□ツンデレな彼女に
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ツンデレ、という言葉をは皆さんは知っているだろうか。
普段はツンツンしているが、二人きりの時などには急にしおらしくなってデレる。
大雑把に言えば、そういうものをツンデレと呼ぶ。
もっと分かりやすく言えば、好きな子には素直になれない可愛い生物のことである。
つまり―――
「な、何だ?」
「いや……」
「べ、別に城島のためにこんな格好してるわけじゃないんだからな!」
自分の目の前で、何故かナース服を着ているシグナムさん。
そんな彼女のことを、世間一般にはツンデレと呼ぶのだ。
『ツンデレな彼女に』
「どうしてナースなんでしょうか?」
居候している八神家にて、扉を開けた買い物帰りの高人の目の前に突然現れたナースさんに、高人はとりあえず尋ねる。
ちなみに、今日からはやて達が任務により出張なので二人きり。
それにシグナムさんは常識人。
思いつきでナース服を自宅で着用する趣味は持っていないはずなのだから。
そもそも、シグナムさんがナース服を持っているわけなどないのである。
「(これは誰かにからかわれたなぁ……)」
ということは、自然と答えは絞られてくる。
というか、シグナムさんをこうも上手く騙せる人間など、思い当たる人物は検討が付くのだが。
さて、今回は誰に騙されたのだろう、と私が考えていると、シグナムさんが慌てた様子で弁解してきた。
「こ、これは主たちが勝手に……!アルバム作りのためにどうしても必要だって言われたからで……決して城島がナース服が大好きだって聞かされたから着てるわけじゃないからな!?」
「はぁ……」
成る程、やはりはやてさんたちだったか。たしかに最近アルバム作りが趣味になってるみたいですが…。
予想が見事的中した所で、私がナース服を好きだとか、どこからその話を聞いたのかはやてさんたちに小一時間問い詰めたい。
いや、別に嫌いというわけじゃないのだけれども。
「しかし……」
恥ずかしそうに言葉を発すシグナムさんに、高人は苦笑した。
シグナムさんは案外その場に流されやすい人だと思っていたが、ここまでとは。
恐らく最初は拒否していたのだろうが、はやてさんたちにゴリ押しされたのだろう。
少しくらいなら……と思い始めたら、その時点でシグナムさんの敗北は決定したようなものだ。
段々とはやてさんたちに言い包められていく彼女の姿が、目に浮かぶ。
でもまぁ、しかし。
「可愛いですね、シグナムさん」
「なっ!?」
しかしだ。
自分の言葉に顔を真っ赤にしたシグナムさんに、私は言葉を続ける。
「だって、私がナース服が好きだからという理由で、その服を着てくれているわけでしょう?」
「だ、だから違うって言ってるだろう!主たちに騙されて……」
「私がナース服が好きだ、と聞かされたから着たんでしょ?」
うっ、と言葉に詰まるシグナムさん。
一応私はナース服が好きなので、はやてさんたちの言葉は間違っていないのだけれども、そんなことはこの際どうでもいい。
問題は、私のためにシグナムさんがナース服を着てくれたことにある。
「なんというか、本当にシグナムさんが可愛くて仕方がないんですけど」
「ううううう〜〜〜〜」
しかも、素直に肯定しないところがまた、なんとも言いがたい彼女の可愛さだ。
相変わらずお顔が真っ赤なシグナムさんを、高人は思わずぎゅうっと抱きしめる。
「ありがとうございます」
シグナムさんは、抵抗しなかった。
抵抗せず自分の腕に大人しく収まって、しかし顔はそっぽに向けて小さく呟く。
「………別に、城島のために着たわけじゃないんだから」
わかっているくせに、と私はそんなシグナムさんに苦笑した。
ここまできて、まだ言うか。
本当、素直じゃない人である。
「本当に……可愛い人ですね」
そろそろ素直になってもいいんじゃないですか?と目で訴えるが、シグナムさんは目を合わせてくれない。
でも。
「心の底から、そんなシグナムさんが大好きです」
「………バカ」
私が寄せた唇にしっかりと自分の唇を重ねてきたシグナムさんは、本当にツンデレな、私の愛する彼女だった。
End