喫茶店『Hatipoti』

□Safety
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「うぁ〜っ、ダ〜メ〜や〜」

「……はぁ」

昼下がりの喫茶店『Hatipoti』。
目の前でマグカップを拭いている高人を相手に、はやては本日何度目になるのだろうかのため息をつく。

「あぁ〜うぅ〜」

「そろそろ、腹を括らないとかないと駄目だと思うよ?」

「う〜。…それは分かってるんやけど……」

「ホントになのはさんとは正反対だね」

「うぅ…こういう時、なのはちゃんの性格が羨ましいく感じてまうなぁ……」

頭を抑えながら何度も唸る。

…だけど、少しははやてに同情する。

今日は、管理局のお偉いさん達が集まっての会議がある。
六課解散後、その能力を買われて若いながらも重役に抜擢されたはやてにも、もちろん招集令が今日に限らす何度も出されているのだが…。
未だに慣れていないらしい。

そして、会議の召集がかかると毎回はやてはこうしてHatipotiのカウンターで頭を抱えて一人で嫌々と言っている。

こっちとしては、毎回来られるの少し迷惑なんだけど…。

「まぁ、見慣れちゃったと言ったら、見慣れたんだけどね…」

「怒るでぇ!?」

「いやいや〜、はやてさんクラスなら会議くらいどうとでもなるんじゃないの?」

「いや、まぁ、会議自体には問題ないんやけど…。とにかく、苦手なんや…。あの、ピリピリした、オヤジの視線が…っ!」

確かに、レジアスさんみたいな人の視線を浴びるのは辛いとは思うが、そういう個人的な鬱憤を毎回店で晴らさないで欲しい。

「はいはい。でも、会議自体こなせるなら百点満点だね〜。はい、ハナマル」

現役時代は六課を代表して、よく高人が会議に駆り出されていたこともあり、昔の苦労分の仕返しに、高人は意地悪な表情をしながらうなだれているはやての頭の上でハナマルを指で描いた。

「む…なんやバカにされてるのか!?わたしは!?」

「違う違う、からかっただけです」

「……」

はやてが無言で私の襟首を掴み、握り拳を構えた。

「OKOK。ふざけた私が全面的に悪いです。なので、まずは握り締めた拳を降ろそうか」

「…まったく!!」

はやてはもっと不機嫌な顔をして椅子に座り直して、先程高人が淹れたカフェオレに口をつける。

「ふざけたのは本当に謝るけど。でも、実際問題、ちゃんと会議でしっかり意見を言えてるのかな?アガり症な重役さん?」

「…ぅあ〜」

やっぱり無理や!とはやては再び頭を抱えだした。

部隊隊長での会合ならまだしも、あんな大勢の重役の前で…緊張して死んでしまいそうや!口から心臓が出てまう!そんな心の声が聞こえてきそうなほど、負のスパイラル推理の絆に陥っているはやて。

はやてが頭を抱えていたら、不意に肩に手を置かれた。

「はやてさん」

「ぇ?」

目の前にはもちろん高人がいた。
しかし、呼びかけたのは引退した高人ではなく、昔から変わらない優しくて頼れる人の表情をした高人だった。
そんな、急にスイッチが切り替わったみたいに高人の雰囲気が変わって、自分もそれにつられて、何故かどぎまぎしてしまう…。

「はい。ゆっくりと深呼吸して…」

「えっ、うっ、うん…。すぅ〜はぁ〜」

高人に言われるがままにはやては深呼吸を始めた。

「もう一回」

「すぅ〜はぁ〜」

たった二回の深呼吸だが、高人から言われてすると何故だか気分が落ち着いた。

でも、なぜだろう?

「いい?今から、私の言う言葉を助言として心に留めておいてくれないかな」

なぜ、こんなに…

「わ、分かった」

そして、高人の口から紡がれる言葉は、はやてにとって昔からの魔法の言葉。
瞳をギュッと閉じて、神経を耳に集中させてから頭に、ゆっくりと甘い毒が浸透するように伝わっていった。

なんで、こんなに胸がドキドキするんだろう?
なんで、緊張してる時と同じドキドキじゃないんだろう?


「はやてさんなら大丈夫。絶対に成功するよ。会議がうまく成功して、喜ぶ私のことと、はやての満足した表情を思い浮かべてみて。ほら、はやてはもう大丈夫、絶対できるよ」

大丈夫…。
はやての中に高人の言葉がまるで綺麗な水がスポンジに染み込んでいくように言葉を一つも残さず、不安がっていたはやての心を震えるくらいの暖かさで包み込む。

「…」

目を閉じて、集中しすぎたのか、体がぶるっと震えてしまった。
少し恥ずかしい…。

「OK?」
「う、うん」
「よし!いい子だ!」

そう言って、高人はニコリと微笑み、はやての頭をわしゃわしゃと撫でた。

「うわぁ!?も、や、止めぇ!私はもう子供じゃないんやから…」

「ハッハッハ、私にとってははやてさんはまだまだ子供ですよ」

「う…うぅ…」

何故だろう、子供と言われるのはなんだか嫌。高人に言われるのはもっと。
そんなはやての気持ちをよそに、高人ははやての髪を優しくなでながら

「行ってらっしゃい。はやてさんは一人じゃないよ。なのはさんやフェイトさん。それに皆が支えてくれるよ。もちろん、不肖城島高人もお忘れなく」

「……うん!」

そう言ってはやては元気良くHatipotiの扉を開き、管理局へと歩き出して行った。

まだ、緊張はしてるみたいで顔が赤かったが。まぁ、最初に比べたら大分マシになったみたいだ。

今回も、はやての緊張を上手い具合にほぐせた。
まぁ、引退した身でも鬱憤晴らしくらいになら役立ててよかったかな〜。
ゆっくりと締まっていくHatipotiの扉から、微笑みながらはやてを見送る高人の顔が見えていた。

END

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