ガンダム00@
□離さない
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『離さない』
「・・・よし、これで整備完了です!」
ミレイナは格納庫で機体の整備を終えて、自室に戻るところだった。もう深夜だ。
今は地上にいるので、せっかくだから後で夜空を見上げてもいいかもしれない・・・なんて事を考えていると、廊下を紫色の制服が横切るのが見えた。
ずっと開けていた格納庫の入口の間から見えたのですぐに視界から消えてしまったが、紫色の制服を着ているのはティエリアしかいない。
「あ!アーデさん!」
入口に近よりながらミレイナが声をかける。すると、間を置いて彼が戻ってきた。
「アーデさんイメチェンでもしたんですかぁ?くりくりで可愛いです!」
戻ってきた彼の髪型はいつものストレートではなく、パーマをかけたようだった。
「ミレイナの髪はくせっ毛で可愛いくカールがかからないからアーデさんが羨ましいですぅ」
そう言ってから違和感を感じた。
なんだかいつもとは雰囲気が違う。
目の赤は何処までも深くて吸い込まれそうになった。いつものティエリアの目はこんなに冷たい色をしていない。
しかし、髪型以外はどう見てもティエリアだ。制服だって着ている。
だが、中にいるのはティエリアと違う誰かのような気がした。
「勘が良いんだね。君は」
「!・・・声も違うです・・・もしかして双子さんです?」
目を見たときは少し違和感を感じたが、双子の兄弟ならばつじつまも合う。きっと彼もソレスタルビーイングで、新しくトレミーに乗船するのかもしれない。
ティエリアにそっくりな彼は、少し驚いた顔をして、くすくすと笑った。
「勘が良いのか悪いのか・・・確かに双子に見えるね。・・・でも、双子じゃない。」
「・・・え?」
「イノベイター、って知ってるかい?・・・僕はそう呼ばれる存在の内の一人さ」
一瞬、空気が張りつめた。
「イノベイター・・・アーデさんが言ってたです・・・じゃあどうして貴方がアーデさんと同じ顔を・・・」
「決まっているじゃないか。その『アーデさん』も、イノベイターだからさ」
目の前にいる彼は楽しそうに笑った。
アーデさんが、イノベイター?
少し。いや、かなり驚いた。
でもティエリアはスパイでもないし、ソレスタルビーイングを裏切るなんて事も絶対にしない。
ミレイナにはその自信があった。彼が四年もの間、組織再建に奔走してきたのを見ていたから。
だからこそ、それを知っているミレイナには心配な事が一つあった。
同じイノベイターでも志を違えて敵となったティエリアを彼等はどうするつもりなのだろう。
そして、今目の前にいるイノベイターは、ティエリアの制服を着ている。ミレイナはティエリアの事が気がかりでならなかった。
「アーデさんは・・・アーデさんは今何処にいるですか!?」
半ば叫ぶように、ミレイナは言った。
「さあね」
「ちゃんと答えてくださいです!アーデさんは何処に」
「もう何処にもいないよ」
彼の目が細くなり、口の端が意地悪につり上がった。
「これからは僕がティエリア・アーデだからね。バラしちゃ駄目だよ」
彼はまた楽しそうにクスクスと笑った。
ミレイナは彼の前で座り込んだ。もう足に力が入らない。怒りも悲しみも出て来ず、ただ呆然とした。まるで自分の魂が抜けていってしまいそうだった。
だが、その魂は一瞬で引き戻される。
「ミレイナ!!」
ティエリアの声が広い格納庫の中に響いた。ティエリアはミレイナを守るように二人の間に割って入る。
「ミレイナ、大丈夫か?」
「アーデさぁん・・・無事で良かったですぅ・・・」
座り込んだまま泣き出したミレイナの頭を撫でたティエリアは、振り返ると怒りの表情を浮かべた。
「リジェネ・・・なぜここにいる!」
「君にまた会いに来るといっただろう?そしたらいないから君の制服を着てうろついていたのさ。この服の方が動き回るのに好都合だし」
「ミレイナに何をした」
ティエリアがリジェネににじりよった。しかしリジェネは態度を変える様子を見せない。
「ちょっと意地悪しただけだよ。」
「・・・貴様・・・!」
「この状況だと落ち着いて話が出来ないね。・・・じゃあ次は二人きりで話そう」
リジェネは軽く手を振って何処かへ行ってしまった。それを確認するとティエリアはミレイナに向き直る。ミレイナは既に泣きやんでいた。
「・・・何をされた」
「大丈夫ですアーデさん。話をしただけですぅ」
「本当か?怪我が無いのならいいのだが・・・」
「でも、ごめんなさいですぅ。腰が抜けちゃって・・・立てないんです」
申し訳なさそうに笑い、ミレイナは小さく笑う。そして、立ち上がるためティエリアに右手を差し出した。
「ちょっと引っ張ってほしいですぅ」
ティエリアは一瞬間を置いた後、ミレイナが差し出した右手を無視して
彼女を抱き上げた。
「わっ!あ、アーデさん!大丈夫ですぅ!下ろしてくださいです!」
慌てて懇願するも、ティエリアはそれを聞き入れる様子もなく、そのまま歩き出した。
もう何を言っても無駄だと感じたミレイナは、素直に身を預け、目を閉じる。小さな鼓動の音がふたつ聞こえた。
「・・・すまない」
頭上から声がした。ミレイナは顔を上げる。
「・・・なんで謝るですか?」
「・・君を危険な目に合わせた」
「・・・・・・聞いたです。アーデさんのこと。イノベイターだって」
ティエリアが息をのむのが分かった。
「でも信じているです。アーデさんはずっと此処にいてくれるって。こうしてミレイナのそばにいてくれるって・・・だってアーデさんは、アーデさんですから!」
ミレイナが笑顔を見せると、少し驚いたような表情をしてからティエリアは小さく微笑んだ。
信じているから大丈夫です
ミレイナもずっと側にいるですから、安心してくださいです
だから、絶対離さないで