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□かさなる影、永遠に
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赤く染まる町並み。石畳の歩道。
世界の色が変わる丁度その時に、ティエリアとミレイナは出くわした。

お互いの姿も赤く染まるのを見あいながら、トレミーへの帰路に着く。
ミレイナは果物が入った紙袋を胸に抱え、ティエリアはクルーに頼まれた買い物の荷物を両手に持っていた。
二人の影は世界の赤さに比例して、長く黒く地にその姿を刻み付ける。
「夕日、すごく綺麗です・・・・・」
瞳は夕焼けに見惚れたままで、ミレイナが呟いた。
こんなに神秘的な太陽は宇宙に出ていたって見ることが出来ない。
宇宙から見る太陽は神秘的なものというより、力強い生命力の塊のように感じられた。
赤は大抵『警告』や『危険』などといった不穏な事柄のイメージだが、太陽が発すればそれは一変する。
星に宿る一つ一つの生命に抱擁とキスを与えてくれるような光。

そんな優しい『赤』が、ミレイナは大好きだ。
この色の光に包まれると誰かが見守ってくれているような、そんな穏やかな気持ちになるから。
そう考えると、自分はまだまだ幼くて、傍にいてくれる人を必要としているのだと自覚する。等身大の自分になって、自分自身のことを見つめることが出来る。

「・・・・・・っと」
ミレイナは跳んで近くに伸びていた木の影を踏んだ。
笑顔で振り返ってティエリアを見る。彼は仕方なさそうに微笑んだ。
「転ぶんじゃないぞ」
「はいですぅ!」



建物の影、柱、電柱の影、停まっている車の影、人を待っているらしい人の影、

とん、とん、とん、とリズムをつける様に影だけを踏んでいく。
大きな影を踏んだ時はゆっくり歩いたり、走ったり。
その度にミレイナが、赤と黒交互に染まる。
時々、紙袋の一番上に入っている林檎が落ちそうになって立ち止まる。



そんなミレイナの後ろを、見守るようにティエリアがついていった。
二つに結った髪をなびかせながらミレイナはこちらを見ずに先を行く、
それが微笑ましくもあって、淋しくもあって。

すると、危なっかしくも軽やかな足取りで進んでいたミレイナがふと立ち止まり、こちらを振り向く。困ったような表情をしていた。
「アーデさん、困ったです」
「どうした?」
「次の影までが遠いですぅ。ミレイナ絶体絶命ですぅ」
確かに次の影までは距離がある。
しかし、届かない訳ではない。間にもう一つ影があれば届くだろう。


「ならば、僕の影を使うと良い」
ティエリアはミレイナの乗っている影とその先の影の間に立って影を作った。
彼の笑顔が夕日の赤に染まる。
「これなら通れるだろう?」

「はいっ!ありがとうございますですぅ!」
嬉しそうに笑ってティエリアの影に飛び移り、更に次の影を踏んだ。
再び赤と黒を繰り返し、ミレイナは進む。










ミレイナはまだアーデさんに頼りっぱなしですけど、いつか、いつか、ミレイナがアーデさんを支えられるようになるです。





二人の姿が永遠に在りますように。
永遠でありますように。









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