A

□聞こえるよ、
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以下、24話のネタバレあるのでご注意願います。













「セラフィム、大破・・・」

その言葉の意味を理解した瞬間、心の中が真っ白になった。何も考えられなくて、


通信のボタンを押すとノイズだらけの音のみが聞こえた。
恐る恐る言葉をかける。緊張のせいか、声がかすれた。
「あ、アーデさん・・・?」
返事は無い。
モニターを見ても、画面は無慈悲な現実を伝えるだけで。


泣きたくなった。涙がすぐそこまでこみあげてきて、泣いてはいけないとミレイナはかぶりをふる。

嫌だ。来て欲しいのは涙じゃないのに、






「・・・返事して下さい!」
もう一度呼びかけるも、やはり返事は無い。モニターにも望む反応は表れない。
こんな、こんな終わりが、
あっていいのでしょうか?


ミレイナは何度も何度も画面を確認する。
これが、彼の生死を分けるたった一つの繋がりだから、


誰もが諦めかけた時、無人の筈のセラヴィーが沈黙を破り動き出した。そのまま自動砲台として戦い始める。
しかし、セラフィムは時を止めたように動かなかった。
ティエリアが操作しない限り動かないはずなのに何故―

ブリッジが驚きの声で染まった。
「な、何故なの・・・!?」
「アーデさんっ!?」
同時に、通信が入った。
セラフィムからでもセラヴィーからでも、ましてや他のマイスターの誰からでもない、
ヴェーダから。


「ヴェーダから通信?どうなってるの!?」
「・・回線を繋ぐですぅ!」

すると、ノイズが全く無い明瞭な音声が流れる。
そしてその声は、ミレイナの記憶に染み付いたままの優しい声音をしていた。
まるで何年もの間聞いていなかったかのような懐かしい響きを感じる。

『・・・聞こえるか?』





「ティエリア!」
「良かった・・・無事だったのね」

「あ・・・っ」
ミレイナが事を理解するには数秒を要した。

声が、



声が聞こえる。


「アーデさん!」
思わずシートから身を乗り出した。戦いの最中だという事を忘れ、彼に今すぐ会いたくなった。
一つ望みが叶えば、また、一つ欲してしまう。
欲深いと分かってはいても欲しがらずにはいられなかった。

『ミレイナ・・・皆、無事か?』

「アーデさんのおかげで皆無事ですぅ!」
「まったく、皆あなたの心配をしてたっていうのに・・・よくやってくれたわ、ティエリア」


「今どこにいるですか!?」
『・・・ヴェーダの中、だ』

一瞬間を置いて言ったその返答にはクルー全員が驚いた。そもそもヴェーダとは中に入れるものだったのか。
「じゃあ、さっきのセラフィムとセラヴィーは・・・」
『ヴェーダとリンクさせて操作した』
いつもと同じ調子で彼が淡々と話す。ミレイナにとってこんなにも嬉しいことはなかった。

「大破したセラフィムじゃ戦えないわ。ティエリア、小型艇を行かせるから、それに乗って帰ってきて・・・ミレイナ」
「はいですっ!自動発進させるです!」
スメラギに答えるミレイナの声が心持ち弾む。すぐに発進させるべく小さな両手が操作を始めた。
しかし、ティエリアの凛とした声にそれを阻まれ、手の動きが止まる。

『いや、いい』



「・・・え?でも、それが無かったらアーデさんが帰ってこれな」

『すまない・・・・・・僕はもう、トレミーへは帰れない』
少し逡巡するように、数秒の沈黙の後その言葉は響いた。
彼が何故そう言うのか、その言葉は何を意味するのかミレイナにもクルーにも分からない。
「それってどういう・・・」

『何から説明したらいいのか・・・・・・とりあえず言える事は、僕の身体は敵母艦内で死んで、今は意識のみがヴェーダとリンクしている、という事だ』

矢継ぎ早に言われ、頭が混乱してしまった。

死んだ?誰が?

「死」という単語の前に、ミレイナは不安を抱いた。
「アーデさん、帰ってきてくれないんですか?」
震える声で尋ねると、辛そうな声が帰ってくる。

『・・・すまない、』


一番聞きたくない返答だった。
本当に帰って来ないのだ、と思い知らされるから。
正直、信じたくはないが、本人から聞かされてしまえば信じざるをえない。

だったら、

「・・・アーデさん、何言ってるのかさっぱりですぅ」

ミレイナは笑顔を作って、息を少しだけ大きく吸った。涙が少しだけ引っ込んだ。
「だから、後でもうちょっと分かりやすく教えて欲しいですぅ。
会いに行くですから、絶対にいなくならないでくださいです」


『・・・・・・分かった。待ってる』

今度は、一番聞きたい答えが帰ってきた。













『・・・また来たのか』
広い広い空間に声が響く。
部屋中の赤い光と共にデータが忙しく処理されていく様子は、幻想的と言ってもいいのかもしれない。
そんな無重力の場所に、ミレイナはこれ以上ない笑顔でふわりと浮かんでいた。

「いいじゃないですか、そんなのミレイナの自由ですぅ」
『まぁ、確かにそうだが』


戦いが集結して数ヶ月、ミレイナはよくティエリアに会いにきていた。仲間の事、世界の事を、まるで孫が祖父に楽しい出来事を話す時のような興奮した口調で言う。
ちなみにティエリアからすれば、ヴェーダを介して大抵の事は知ることが出来るため、仲間の事や世界情勢はリアルタイムで頭に入っている。
しかし話すミレイナが余りに嬉しそうなので、とりあえず黙っておくことにしているのだった。

「アーデさん」
『なんだ』
「・・・・・・ふふっ」
返事が返ってきたのが嬉しくて、ミレイナは微笑んだ。
今は当たり前の事だけれど、一度はもう返ってこないと思ったから。

彼が会いに来れないのなら、自分が会いに行けばいい。
どうしてこんな簡単な事にすぐ気付かなかったのだろう。





いつ、どんな時だって、独りにはしないから。

会いに来たときは、また返事してくださいね?











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