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□子供だって、いいじゃない
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これからまた、戦いが始まる。
いつもはすぐにブリッジへ行って準備をするところだが、今回ミレイナは出撃前のティエリアへ会いに行った。
何故だかわからないが、彼の姿を見たかった。
今自分は寂しいのだろうか?
自分のそんな感情が解らなくて不安なせいかもしれない。

「アーデさん」
紫のパイロットスーツに身を包んだ背中に声をかける。
すると、澄ました表情のティエリアが振り返った。そのいつもの顔に強張っていた体が楽になる。

「どうした」
そう聞かれ、理由が言えずにうつむく。
寂しかったなんて言って子供扱いされたくは無かったから。
「え、ええと・・・なんとなく、ですぅ」
「・・・・・・そうか」
微笑んで、ティエリアが近づいてきた。気持ちをみすかされたような気がして恥ずかしくなる。
縮こまるミレイナの傍に立ったティエリアは、その頭をそっと撫でた。
「大丈夫だから」

暖かな手のひらの下で、ミレイナは赤らめた頬を膨らませる。
「子供あつかいしないで下さいです!」
「いや、そんなに気にしてる時点でまだまだ子供さ」
「子供じゃないですぅ!」
「・・・そうか?」
「ミレイナはアーデさんに釣り合う大人の女の人になりたいです!子供は嫌です!」
微笑むティエリアと、頬を膨らませるミレイナ。ミレイナも自分で意識しない内に声が荒くなった。



やはり今日の自分は変だ。
どうして、こんなにも胸が苦しいのだろう。
ティエリアの言う通り子供である自分に苛立ち、つい口を出てきた言葉に自分自身でも驚いた。







「・・・アーデさんなんて、大っ嫌いですぅっ!!」











「あ・・・・ミレイナは・・っ」
半ば叫ぶ様に言ってから、しまった、と思った。
言ってはいけない事を言ってしまった。
勿論本心からではない。内心で、言ってしまった手前どうしよう、とミレイナの頭は混乱していた。

そしてミレイナは、今するべき一番大切な選択肢を忘れて一番最悪な選択肢を選んでしまう。


不思議そうな、それでいてどこか悲しそうな表情をしたティエリアを尻目にミレイナは出口に向かって走り出した。
自分を呼ぶ声がしても振り返るのが怖くて、そのまま廊下に出る。
自分は何をしているんだろう。
また自分に苛立って涙がでた。嫌いなんかじゃないのに、大好きなのに、アーデさんは悪くないのに。
・・・絶対に傷付けた。
綺麗な綺麗なアーデさんの心を曇らせてしまったです。







大嫌いなのは、自分自身だった。























戦闘が終わって、いつもする筈のティエリアへの通信もせずにミレイナはブリッジを出た。
誰とも話せる気分ではなかったから。とにかく一人になりたかった。
自室へ戻り、着替えないままベッドにうつ伏せで横たわる。
「アーデさん・・・」
呟く。涙が止まらなくなって、シーツを強く握りしめた。
あんな事を言われて、彼はどう思っただろう。怒っただろうか。それとも悲しかっただろうか。
それとも―、






「ぅぅ・・・このままでは・・・っ」


このままでは、いけない。

謝らなくちゃ。
今、すぐに




思い立ってすぐさまミレイナは部屋を出て走り出した。
向かうは、彼の部屋。




部屋の扉は無防備に開けっぱなしになっていた。
「アーデさんっ!」
こんなに緊張して彼の名前を呼んだのは初めてかもしれない。
にも関わらず、部屋には誰も居ないようで返事は無かった。
拍子抜けしつつ扉の前に立っていると、
「・・・ミレイナ?」
凛とした声が響いた。驚いて振り返る。
そこには丁度シャワーを浴びてきたらしいティエリアがいて、まだ濡れた髪をタオルで拭いていた。
自分の部屋の前にミレイナがいたことに驚いたのか、目を丸くしている。
ミレイナも余りに突然の登場に驚きつつ、反射的に言った。



「ごめんなさいです!」
「すまない」






二人が言ったのはほぼ同時だった。また驚いて目を見合わせる。
「え・・・?」
「な、なんでアーデさんが謝るですか!」
「いや、何か気に障るような事を言ったのかと・・・」
「違うです!悪いのはミレイナですっ!ミレイナはアーデさんが大好きなのにっ」
「・・・・・・」
言い合っているとそのうち何だかおかしくなって笑いがもれた。つられてティエリアも笑いだす。

「嫌いなんじゃ無かったのか?」
「そんなぁ!」
「・・・嫌われたかと思ったが」
「嫌いになったりなんて、絶対に無いです・・・・・・ごめんなさいです」
「・・・ありがとう、ミレイナ」
「え?」



ティエリアは微笑んで、
「ありがとう」
もう一度、静かに言った。




僕を好きでいてくれて、ありがとう

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