A

□違いなんて判らない、けど
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「もう、僕と一緒にいない方が良い」





いつだったか、アーデさんにそう言われた事があった。
彼のルビーのような瞳は突き放す様に冷たくて、寂しそうでもあって。
ミレイナはこんな表情を見たことが無い。それだけで、いいしれぬ不安に駆られた。





「・・・もしかして・・・ミレイナ、迷惑だった、ですか?」

声が震えてしまう。

いつもミレイナは彼を見つけると駆け寄っては話し掛けていた。
でも、それが迷惑だったとしたら、
もしかしたら、ティエリアに嫌われてしまったかもしれない。そんな恐怖と不安がミレイナを襲った。
いつでも彼が自分の世界の中にいたから、


その存在に見捨てられる事は恐ろしい事で。







そんなミレイナの動揺を感じとったのか、ティエリアは困惑したように訂正する。
「いや、迷惑なんかじゃないんだ」
「じゃあ、なんで・・・?」

独り言のような滓かな声でミレイナが言った。彼は何かを言いかけて、そこで言い淀む。

「それは、僕が・・・・・っ」


ミレイナは、ティエリアが続きを言うのを黙ってくいいるように待つ。
たった数秒の沈黙なのに、彼女にはその時間が永遠のように感じられた。

「・・・僕が、君を危険に晒してしまうかもしれないから」

イノベイターである自分が、いつ仲間を危険に晒さないとはいえない。
そんな想いから出た言葉だった。


「・・・・・・え?」
彼の考えを知らないミレイナは、予想外の言葉に驚きの声をあげる。
危険に晒す、とはどういう意味なのだろう。
ティエリアを見ると、なんだか辛そうな顔をしていて。
「アーデさん・・・」
「・・・・・・」
その場に流れるのは沈黙だけ。
でもなんとなく、彼が自分の事を大切に思ってくれていることはわかった。
同時に、自分が嫌われてはいなかったという事に胸が躍る。
「ミレイナなら大丈夫です。だからそんな表情しないで下さいです」
「大丈夫だという保証が・・・!」
ミレイナの言葉を否定するように、強い語調でティエリアが反論しようとした。

保証なら、ある。確固たる自信と共に。



「アーデさんが、守ってくれるって信じてるです」



そう言って、ミレイナは無邪気に微笑んだ。
「・・・それにトレミーにいる時点で、危険に晒されるも何も無いですよ!覚悟だってできてるです」
その瞬間、抱き締められた。
不意に感じる温もりに驚き、ミレイナは顔を上げて彼の表情を見ようとする。
「君が覚悟なんてしなくていい」その表情もまた笑顔だった。
「・・・変な事を言ってすまなかった。君は、僕が守る」

未だ幼い二人の、強い約束。
ティエリアの決意に応えるように、ミレイナも笑顔で頷いた。


「アーデさん、大好きです」






すると、驚いたように一瞬間を置きいたティエリアは笑顔で、でも仕方なさそうにため息をついた。

「・・・憧れ と 恋 は違う」

「・・・・・・むぅ、アーデさんの馬鹿、ですぅ」

ミレイナは頬を膨らませた。






違いなんて判らない。でも、確かな事は



ミレイナはアーデさんの事が大好きだということ。

これだけは、いつになっても変わりはしない。




















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