A

□気が付けば手に入れていた
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「・・・ミレイナ」
食堂で食事をしていると、隣からティエリアが話しかけてきた。

ミレイナはピラフのあまりの美味しさに頬に手を添えてうっとりとしていたが、彼の声で現実に引き戻される。
澄んだすみれ色の瞳がティエリアを見つめた。
「なんですか?アーデさん」
「これは何だ?」



意地悪そうな笑顔を浮かべる彼の人差し指が捉えたのは、苦い緑色をしたミレイナの天敵。



皿の端に不自然に寄せられたそれを見た瞬間、笑顔だったミレイナの表情が凍りつく。
「ぴ、ぴーまんです・・・」


尻すぼみになって消えていった言葉は虚しくもピーマンに吸い込まれ、自然とミレイナの眉間に皺が寄った。
どうしても、この苦さは好きになれない。

「・・・むぅ」
頬を膨らませて見たものの、ピーマンは無くなる訳はなく。



「ちゃんと食べないと駄目だ」

そんなミレイナを見るティエリアの目は真剣そのもの。
食べる事を拒否しようものなら無理矢理ピーマンを口に詰め込まれそうな勢いだ。
その眼力に気圧されつつも、ミレイナは反論を試みた。

「でもでもっ!・・・すごく苦いです!」
「それがピーマンだ」



「ぴ・・・ぴーまん・・・っ」
一言で早くも言い負かされ、ピーマンに向き直る。しかしなかなか勇気が出ず、にらめっこを続けるだけだ。
そんなミレイナを見て、ティエリアが真顔でとどめの一言。





「食べなかったら大人になれないぞ」






実際は全くそんなことは無いのだが、子供と思われることを嫌がるミレイナにはその一言だけで十分だった。


アーデさんに釣り合う大人の女の人になりたいから、

「ミレイナ・・・頑張るですっ!」

「ああ。頑張れ」


先程と違い、微かに笑みをたたえたティエリアが彼女を見守る。
そのおかげかどうか分からないが、ミレイナはやっとの事でピーマンを完食した。
「やったです!これで子供とは言わせないですよ!?」

満面の笑顔で自分を見たミレイナが凄く羨ましくて。

笑っていたと思ったら本気で悩んでみたり、また笑ったり。

この子は本当に面白い、それと同時に羨ましくも思う。
そんな風になれる日が自分にも来るのだろうか?と














知らぬ間にティエリアはミレイナの頭を撫でていた。
とたんに彼女が不機嫌そうな表情になる。

「子供扱いしないで下さいです!」







「頑張ったな」

優しい瞳でそう言ったのは、笑顔。

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