翻訳の5題

□何言語ですか?
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ふらりとブリッジに立ち寄るとミレイナが一人でデータの整理をしていた。
いつもは休む事なく動き続けている小さな唇も、今はきゅっと結ばれている。瞳の真剣さも戦闘中さながらだ。
ティエリアは少し近寄り難ささえ感じられる空間を入口から見守った。
ブリッジの静寂を壊す訳では無く、あくまで撫でるように操作音が響いていて心地よい。その音は弾むようで普段の彼女をそのまま表しているような気がした。


ティエリアはこの音が好きだ。
モニターのタイピングをする音には人各々僅かな違いがあって、聞いていて面白い。
フェルトの音は落ち着いていて優しく尾を引く。
クリスティナは飛び跳ねそうな位の元気を感じる中で、時々穏やかなリズムになったりした。
そして今ブリッジに響くミレイナのタイピングの音は誰よりもリズミカルだ。
時々危なっかしくリズムがズレる時もあるが、それもまた彼女らしい。






知らぬ間に聞き入っていたらしい。気が付けば操作音は止み、音一つ無く静かだった。

「アーデさん?」
ミレイナが何故ここにいるのかと言いたげな顔でこちらを見ている。しかも、まるで鳩が豆鉄砲を食らった時のような真ん丸の瞳をして。
何となく静かな雰囲気に耐えきれなくなり、思わず質問をぶつけてみた。
「フェルトやラッセたちは・・・」
「えーと・・・グレイスさんはお食事中で、アイオンさんはトレーニングに行ったです!」
「そうか」
「アーデさんは何でこんなとこにいるですか?」
そう聞かれて一瞬考え込んでしまった。
別に用事があった訳ではない。格納庫やら食堂やらぶらぶらトレミー内を回り、気がついたらここにいた。

・・・・・・・・と思っていたんだけど。
多分本当は、君に




「会いたかったから」



かも、知れない。


「え、今何て言ったですか?聞き取れなかったです」
間をおいてミレイナがそう返してきた。果たして僕は運が良いのか悪いのか。
ティエリアは安堵と落胆が混じった溜息をついた。意図せずに自然と笑顔になる。
「なんでもないさ」

もう、教えてあげない

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