翻訳の5題

□宇宙人な君へ、
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「あ、アーデさん」
「!ミレイナ・・・・・」
展望室でティエリアが地球をなんともなしに眺めていると、茶髪を揺らしてミレイナがやってきた。
彼女はまるでショーウインドウの向こうにある宝石でも見るかの様にガラスに手を当て、地球を見る。
地球を見るその瞳は、星の色が反射して青く見えた。
少しの間ミレイナを見ていた視線を元に戻し、その蒼い宝石を再び眺める。
地球は生まれたばかりのように輝き、生命力に満ち溢れているように見えた。



しばらく二人で眼下に広がる地球を眺めていたが、ふとミレイナが呟く。その視線は地球へと注がれたままだ。
「アーデさんは、どうして此処にいたですか?」
「・・・・・なんとなく、だ」
ティエリアも地球を見たままその呟きに応えた。
静かで、穏やかな会話。ミレイナが普段こんなに静かになるのは珍しい。
それは、この星の持つ魔力のせいなのだろうか。

「君は、何故ここに来た」
「ミレイナも・・・・・なんとなくです。そしたら、アーデさんがいたです」
「そうか」















こんなに何もしない時は過ごした事が無いという位、二人は無言で立ち尽くした。
実際にはそんなに時間は経過していないし、何もしていないというわけではないが、二人にはそう感じられた。

それから、ミレイナが久しぶりにティエリアを見た。
その視線に気づき、ティエリアもミレイナを見る。
「地球、懐かしいですか」
「・・・・いや」





別段、地球が懐かしいわけでも、恋しいわけでも無い。
地球でそれほど長い間暮らさなかったせいかもしれない。
生まれたのは地球かも知れないがイノベイターという生まれだったため、目が覚めたと同時にソレスタルビーイング、
即ちプトレマイオスへやってきた。

だから、地球を故郷と思い懐かしむような感情は持ち合わせてはいない。



けれどミレイナは地球で生まれ地球で育ったのだ。
きっと懐かしく思ったり恋しく思ったりもするであろう。

「地球が・・・・懐かしいか?」
逆に訊くと、ミレイナは微笑んで頷く。
「はいです。ソレスタルビーイングに来るまではずっと地球に住んでたですから」
それからまた地球へ視線を移す。


「でもこうして地球を見ていると、不思議な感じです。・・・・・前まではずっと地球の中で宇宙を見ていたのに」
「確かに、ずっと地球で暮らしているとそう感じるのだろうな」
「アーデさんはあまり地球で暮らしたことないですか?」
「ああ・・・・宇宙で暮らした記憶しかない」
「へぇ、フクザツなんですねぇ」
ミレイナのその言い方が何故かおかしくてティエリアは笑ってしまった。
「複雑・・・・・・・・・そうだな。複雑、なんだろうな」




















ソレスタルビーイングの少女が、一人のイノベイターに恋をしてしまったということは。


そして、彼もその少女に恋をしてしまったということは、きっと複雑なことなんだろう。













だが、彼はその感情を良く知らない。恋だということを自覚していない。

だからこそ、もっと複雑なのだ。



















数秒して、思い出したようにミレイナが言った。
「あ、今のミレイナ達って正に『宇宙人』ですぅ!!」
「いきなり君は何を言い出すんだ。『宇宙にいる人』という意味でなら、地球に住んでいる彼等も宇宙人のはずだが」
「・・・・・・いいえ、宇宙人とは『今、宇宙にいる人』のことです!」
腰に両手を当てて秘密基地を発見した子供のように言う。
「あぁなるほど」


「ミレイナが地球で育って、アーデさんが宇宙で育ったのなら、今ミレイナたちが一緒にいられるのは凄いことです!」
ミレイナの瞳は地球に負けないくらい綺麗に輝いていた。その笑顔に、自然とティエリアも笑顔になる。
「そうだな」









今、宇宙にいる君へ







ずっと、傍にいてくれますか?

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