玉響〜symphonia〜
□Double Wind
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「あれ…?」
小さな声がして、ベッドを覗いてみると、少女は起き上がってキョロキョロとしていた。
「あ、クラトス先生」
私の姿を認めた少女が何となく状況を悟ったらしく、悲しげに微笑んだ。
「…また、迷惑かけちゃったんですね」
「何がだ?」
「運んでくれた…ロイドにも、先生にも…」
「別にかまわない。私のは仕事だ。いくら冷たいと言われても病人を受け入れないような度量の狭さはないつもりだ」
「…クラトス先生は、冷たくなんかないです。本当は優しいって、私知ってます」
「フ……。そうか…」
この少女は人を傷付けないがために嘘をつく。が、その言葉には、嘘がない気がした。
しかし学校中で「冷たい先生」と言われることの多い私を「本当は優しい」とは…。言ってくれるものだ。
「…体調はどうだ?」
「あ、大丈夫です。元気です」
「そうか。一応、熱を測っておけ」
体温計を渡し、日誌を用意する。
多分、彼女は教室に戻ると言い出すだろう。
体温計の音がしたので、聞いてみる。
「何度だ?」
「えーっとぉ…37.5℃です」
「微熱があるようだな?」
「あ、でも平気ですー」
「倒れて運ばれたのにか?」
「ちょっと昨日、宿題に時間がかかっちゃって、寝不足だったんです。もう元気だし、明日は土曜でお休みだから大丈夫!」
「本当か?無理はするな」
「本当です。だから教室に戻っていいですか?」
やっぱりそうか…。
「…そこまで言うなら戻るといい。ただし、また調子が悪くなったらすぐに来るように」
「はい。ありがとうございます」
そうして彼女は戻っていく。みんなの待つ教室へ。
特に保健室に運んでくれた少年…ロイド・アーヴィングには心配をかけたくないのだろう。
健気な少女だ。…昔私が愛した人に似ている。
もちろん今もあの人のことは想っている。伝えることはもう、出来ないけれど。
ロイド、お前は私のようにはなるなよ…?