玉響〜symphonia〜

□match
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「お待たせ〜」

気をまぎらわそうと、花瓶に生けてある色とりどりの花を何の花かと考えながら見ていたら、のほほんとした声が響いた。

「ゼロス!」

いつも通りにへらへら笑っているその姿に、少し…いや、かなり安心した。
慣れない世界に放り込まれて、不安だったあたしは、相手がゼロスじゃなかったら飛び付いてしまいそうだった。

そんな自分が何だか恥ずかしくて

「い、いい匂いのする花だねっ!」

と、花瓶の中で一際存在感のある大輪の百合の花を示して言ってみた。

「あー……。でしょ〜?」

紺色のズボン、ボタンを上から3つくらい開けた白い半袖シャツの下に黒のタンクトップを着て、うざったいくらいに長い赤髪をさらさらとなびかせて、ゼロスが近寄って来る。

花とはまた違った爽やかな香りが鼻をくすぐる。

「香水…?」

「え?ああ…ボディーソープかな?シャワー浴びたから」

香りの発信源のゼロスが自分の匂いを確認しつつ言う。

「優雅だねぇ…」

思わず呟く。

「そうかな〜?しいなもいい香りすんじゃん」

「え?花の匂いだろ」

朝にシャワーとか、香水とかをした覚えがないので言うと

「違うなー。しいなからする」

顔の横に残っている髪の一房が軽くつままれた。

ち、近い…!!

「…ッ……あ!シャツかも!下ろし立てなんだよ」

新しく買ったシャツに初めて腕を通したから、そのせいだろう。
そういうことにしたい。

「そう?」

「そう!それより、用意は出来たのかい?」

応接間にある立派なアンティーク(と思われる)の掛け時計を見てみると、意外と余裕がなかった。

「バッチリよ〜?」

髪をつまんでいたのが離される。ゼロスの長い指をそっと髪が流れた。

「じゃあ行こうか!少し急がないとね!」

「だーいじょーぶでしょ」





「今日は迎えも何も要らないから」

ゼロスがお見送りに出てきたおじさん(執事でセバスチャンというらしい)に言う。

「かしこまりました。行ってらっしゃいませ」

あたしが来た時と同じように深々と頭を下げる。
こちらも頭を下げて返す。

「さ、行こっか」

ほどよく筋肉のついた腕に肩を抱き寄せられる。

「な、ななななっ…!」

体が密着して、薫ってくる爽やかな匂い。燃えるように赤い綺麗な髪が、ほんの少し頬に当たる。

「ち、ち、近っ…近い!はなっ…離れなよ!」

柄にもなく焦るあたしをゼロスが笑う。

「可〜愛い〜〜vだって、そういうお願いでしょ?」

「へ?」

「しいなが朝迎えに来て、イチャイチャしながら学校に行くvV」

「イチャイチャなんて聞いてないっ!大体何であたしがアンタとイチャイチャしないといけないんだい!?」

「賭けに負けたからでしょ?」

「…賭けだったのかい!?」

「え?うん。何だと思ってたの?」

「……………何だろ?」

プッとゼロスが吹き出す。

「まぁともかく、しいなの負けだから、色々聞いてもらわないとなー。うっひゃっひゃっ!」

「な、何がおかしいんだい!というか、何だいその企んでそうな顔は!」

「企むなんて人聞きの悪い…。何も企んでなんてないぜぇ?」

…怪しい。妙な感じがするけど、それがなんなのか分からない。
とりあえず、迎えに行くのはクリアしたし、あとは登校するだけだ。ちゃっちゃと済ませてしまおう…。
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