玉響(二)〜symphonia〜
□オフィスラヴ!
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とある大企業の本社勤めである俺様の朝は優雅にコーヒー一杯から始まる…
「ん〜今日の淹れ方も完璧だな…と、あっちぃ!」
芳醇なかほりを楽しんでいたら、思いの外熱くて、驚いたはずみに使い込んでいたカップを落としてしまい、茶色の液体と白磁が飛び散った。
「あ〜あ。やっちまった…」
お気に入りの変わり果てた姿見て、少しの間絶句したが気を取り直し、欠片を拾う。
「痛っ!」
うっかり指先に刺さり、確認すれば緋色の粒がぷくりと出てきた。
苦い鉄の味を感じながら、作業を続ける。
「嫁でもいればなぁ。奥さん欲しくなるぜ〜」
一人ごちて片付けも処置も自分でして、新しいスーツを身に纏い、伸びたままの髪をまとめて、家を出た。
「おはよ〜ございま〜〜す」
「おはようございます!」
会社に着けば、いつも笑顔が素敵な受付嬢のコレットちゃんが迎えてくれる。
白い肌に金色の髪、フワフワした雰囲気の彼女は、会社のアイドル。
「今日も可愛いねぇ!」
「えへ。ありがとうございます」
ほんわかした笑顔に癒される。あー、こんな子が嫁さんならなぁ……
うっかり妄想をしながら、自分の課のフロアに向かって歩き出せば、黒髪のタイトなスカートからのぞく足の眩しいお嬢さんを発見。
「しいなちゃ〜ん。今日もいい足してるね〜」
「ゼロス係長…セクハラで訴えますよ?」
シンフォカンパニーのやり手係長ゼロス・ワイルダーとは俺様のことよ!んで、彼女は部下の藤林しいな。
ナイスバディで人当たりも良く、大抵の人間と仲良く出来るし、仕事もきちんとこなす。なぜか俺様にだけ厳しい。
「セクハラはないっしょ〜。今日もヨロシクね♪」
軽く肩に手をおき、ご挨拶。
「課長にその気がなくとも、あたしがセクハラと思えばセクハラです!」
「え〜」
いつものように戯れのように言葉を交わす。
「セクシャル・ハラスメント…性的嫌がらせ。確認次第報告します」
「え゙!?」
淡々とした声がして、そちらを見れば、ピンク色の髪を二つに結んだ見た目は子どもなお姉さん。社長秘書のプレセアしゃん。彼女は職務に忠実で、見たことをありのままに社長に伝える。
「うわ〜!ちょっと待って!プレセアしゃ〜ん!!スキンシップ!スキンシップだから!!」
「スキンシップ…人間関係で、肌の触れ合いを重視。了解しました。報告します」
抑揚なく、そう言ってから去っていく。
「ふぅ〜っ」
ちょっと肩を触っただけでセクハラ認定なんてされたら大変だ。
「良かった〜。てことで社長秘書公認スキンシップ♪しいなちゃん、肩凝ってるね〜」
両肩に手をおけば、右肩の手をひっぱたかれた。
「あたしに触るな!このエロ係長!!」
「いってぇ〜!!しいなちゃぁん?上司に手を上げちゃダメって習わなかった〜?」
「習ったよ!今のは正当防衛!!」
「何もしちゃいないじゃないのよ。しいなちゃ〜ん」
「しました!もう行きます」
「待っててば〜」
早足を始めたしいなちゃんについて行く。
「ついて来なくていいです!」
「どうせ同じトコに行くんだから仲良くしようぜ?」
「嫌です!…優雅にもうちょっとゆっくり行かれたらいかがですか!?」
どうしてこうキツイのだろうか…。でもまぁ俺だけの特権ってことで、ね。