玉響(二)〜symphonia〜
□ワンナイトクルーズ
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「二週間後の今夜、予定空けててね♪」
最近忙しいらしく、あまり連絡も寄越さないゼロスが二週間前にそんなことを言った。
何故わざわざ二週間後なのかと聞いたら
「それはその日のお楽しみ☆」
とウィンクと共に返してきた。
さっぱり意味は分からなかったが、とりあえず今日がその日だったりする。
「藤林様、お迎えにあがりました」
昨日の電話で、今日は自分は特に予定がないと話したら、嬉しそうに
『んじゃ15時過ぎにセバスチャン寄越すから、家に居てちょーだい』
と指示され、用意をして待っていたら、15時きっかりにゼロスのトコの執事がやって来た。
そのまま車に乗り込み、いつもの如く紅茶とお菓子を出され、向かう先はゼロスの屋敷。
今夜何があるのか聞いてもセバスチャンははぐらかし、悪戯っぽく微笑むだけ。
本当に何があるんだろう…?
相変わらず馬鹿デカイ屋敷に着いて早々、メイドたちに身を任された。
バラの浮いた風呂に入れられ(風呂も馬鹿でかい)、エステみたいなことをされ(気持ちいいけど妙な感じだ)、服を着せさせられた(自分でやると言ったのに全部やってくれた)。
着せられた服はワインレッドの仕立てのいいドレス。
「よくお似合いです」
「さすがゼロス様のお見立てでございます」
全身鏡の中には、化粧もほどこされ、髪も綺麗に纏められた、あたしじゃないみたいなあたしが居た。
耳にはイヤリング、腕には金のブレスレット。
どちらもいいものに違いない。
しかし、このドレス…背中や腹がすーすーする上に、スカートも短い。
ゼロスの見立てということは、アイツの趣味かい!?
「いいねぇ♪」
声がしたので振り向くと、紅い髪のヘンタイ男。ゼロスが居た。
「ゼロス様!」
「きゃあvあ、お、お帰りなさいませ」
「ただいま〜ハニーたち♪」
へらへら笑うヤツも、見慣れない格好をしている。
黒を基調とした、タキシードみたいな上等な服は、他に見たことないデザインであることを考えると、きっとオーダーメイドの一級品。
手には赤いバラの花束まで持っている。…なんてキザな格好なんだい!
「俺様のスイートハニーを綺麗に仕立ててくれてありがとう」
メイドにまでウィンク。
「あぁっ…」
フラリとさっき髪をセットしてくれたメイドが倒れる。
「ちょっと!?大丈夫かい!?!?」
「まぁ、この子ったら…」
口振りからどうやら先輩らしいメイドが苦笑いをする。
「ちょっと休ませてきますね」
「ヨロシク〜」
人が一人倒れたのにそんな反応!?ポカーンと口を開けて見送ってしまう。
「し〜いな〜、せっかくの美人が台無し〜」
「え、いや、だって…」
「よくあることだから。俺様のミリキに勤めて日の浅いメイドはああなっちゃうのよ〜。徐々に慣れるけどねっ♪」
「ミリキじゃなくて、ミリョクだろ?」
「しいなちゃんにまで馬鹿にされたぁ!」
久しぶりだと言うのにアホなことを言い出すゼロスに呆れる。