玉響〜symphonia〜

□秋
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『紅葉』

紅葉散らしの雨が降る。

傘も差さずに木の下に佇むゼロス。

風に赤い髪が揺れる。

はらはらと落ちる紅葉と一緒に、散ってしまいそうで

あたしは必死に走って、その背中を抱き締めた。

雨の、においと一緒に、ゼロスの匂いがした。

「おわわっ!…しいな!?どした??」

「…何でもない。何でも……」

散りゆく紅葉も情緒があって美しいけれど、アンタは…行かないで。

腕に力を入れ、必死にしがみついてた。

「…なんで、傘差してないのさ」

「忘れちゃってさー」

「…何、立ち止まってんだい!」

「紅葉に、見とれてた」

「…そうかい。傘、一緒に入って、帰ろうよ」

ハンカチで振り向いたゼロスの頬をふく。

雨に濡れた赤い髪が張り付いて、なんだか色っぽい。けれど寂しげだった。

胸がキュンとなり、衝動的に口付けた。

「…ッ!?」

「…あたしの側から、離れて行かないどくれ」

「…!!…大丈夫だって。消えたりしねーよ」

「アンタのそれは胡散臭い」

「ホントにしねぇって。しいながそんな可愛いこと言ってくれるなら…さ」

このくらいで消えないと言ってくれるなら、いくらでも、あたしは言うよ。

側に居て。離れないで。

ずっとずっと。

ひらり

紅葉があたしの元へと落ちてきた。

側に居るよ。離れないよ。

「…綺麗だな」

「え?」

「紅葉」

「…うん」

落ちてきた葉をそっと包み込む。

胸に抱いて。

絶対、どこかになんて行かせたりしないからね。
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