玉響〜symphonia〜

□君がくれたバラを
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俺がこの道を選んだのは、君と共に生きるため。
一目惚れした君の涙を側に居て拭いたかったから。他には何もいらないから、ただ君だけが欲しいんだ――

――いつものお茶の時間。
二人で過ごす、この時間は穏やかで、とても好きだ。
準備をし終わり待ちわびて、君の部屋へと行く。

「しいな〜?」

返事がないのでもう一度呼んでみるが、反応はない。

「しいな!」

重たいドアを開けると部屋の端のベッドが目についた。

近付くと白い肌に真っ赤な唇、艶やかな黒髪の女の子がバラに埋もれて眠っていた。

夜露に塗れたバラの花びらのような唇に自分のそれを近付ける。

柔らかで甘い感触を味わう。

「ん…」

息苦しかったのか、ぴくりと動く。

「ね、お茶しよ?」

「う…ん……」

目を開けてくれない。

芯のあるクセ毛の髪を撫で、額に軽く口付ける。

「起きろって」

「ん…………」

なかなか起きない眠り姫。

しばらく待ってみるか。

暇潰しに一番近くにあるバラの花に手を伸ばす。

紙で作られていた。

吸血鬼であるしいなは、本物に触ると枯らしてしまうから。
本当は、バラの花が好きなのにな。

「…しっかし器用だな」

他と少し違う所にある特に色の濃い赤バラは、芸術作品だ。

触れるのが躊躇われるくらい。

手に取ったのをそっと頭にのせてやる。

よく似合う。

血のように赤々とした美しき仇花。時には人を傷付ける刺を持つけれど、花は繊細で豪奢。

「しいなはやっぱ赤バラだな」
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