玉響〜symphonia〜

□Road of… 番外編
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大陸のほぼ中心に位置する大国テアセラの王都メトキルオは、混乱していた。

数日後に婚礼を控えていた第21皇子ゼロスが婚礼当日になっても遠征先から帰って来なかったのである。

滞在していた別荘がひどい火事になり、命からがら戻って来た皇子の教育係がそのことを知らせた。
国王はすぐに捜索を試みたが結局皇子はみつからなかった。

皇子は死亡した。と、公式には発表され、婚礼の儀も取り止めになった。

「ゼロス様が亡くなったなんて…」
「ご遺体もみつかっていないのに納得なんて出来ないわ!きっと逃げられたのよ」
「なら帰ってきてもいいじゃない」
「…結婚が嫌だったんじゃない?相手の姫が気に入らなかったんだわ!」
「異国の英雄のように、海を渡った遥か向こうの国で名をあげるとか、なったりしたら素敵」

そんな話があちこちで言われ、皇子生存説も様々な形で出てきた。

婚礼の儀はテアセラ王室の一大イベントであったため、各地から来ていた観光客たちがそれぞれの国にその話を持ち帰り、どんどん広まった。


「いや〜大騒ぎだねぇ〜」

「なんでそんなに楽しそうなのさ!大ゴトじゃないか」

メトキルオから少し離れた森の中の小屋で、ベッドの上で体を起こした女と側の木の椅子に座った男が話をしている。

「俺にとってはしいなの怪我の方が大ゴトだし」

「なっ…何言ってんだい!騒ぎを起こした張本人がっ!」

「だって、しいなの方が大事だもん♪」

さらっと恥ずかしげもなく、そんなことを言う赤い髪の男こそ、騒ぎの種のゼロス皇子本人である。

ベッドの上の黒髪の女はその護衛であるしいな。

皇子は存在を疎ましく思う者たちにより命を狙われ、しいなは彼を護って傷を負った。

別荘はその騒ぎの際に火に呑まれたのである。

「…ゼロス。あのさ…」

「何?」

「やっぱり、あたしの傷が治ったら、城に帰ろうよ」

「死んだことになってんのに?」

「生存説もあることだし、『やっぱ生きてました』ってさ…」

「……なんで、そんなことゆーの?せっかく、策をめぐらせて逃げてきたのに」

ゼロスは、皇子という身分に嫌気がさしていた。
命を狙われたり会ったこともない姫とムリヤリ結婚させられそうになったり…嫌で仕方がなかった。
だから、逃げたのだ。もう、何も…しいな以外を、捨てる覚悟で。

皇子のままでは、しいなとずっと一緒に居ることが…共に生きることが出来なかったから。

幼なじみで、護衛としていつも体を張ってでも自分を助けてくれたしいな。
彼女がこれ以上傷だらけになるのなんて見たくなかったし、ただの男として彼女に愛を誓い側に居たかった。

だから選んだ道なのに、なぜ「帰ろう」などと言うのか…。

「…だって、やっぱりアンタは皇子だし。あたしなんかのために、身分を捨てるとか、いけないよ……」

「…ずっと、そんなこと考えてたのか?」

低い声でゼロスが言う。怒っているのだ。それが分かり、しいなは少し震えた。

「うん…」

「そんなことばっか考えてるから傷の治りが遅い訳だ。ふぅん」

こういう時はロクなことにならない。

ゼロスは椅子から立ち上がりしいなに近付き、逃げようとするその腕を捕らえる。
腕を引き、顔を近付けさせ、口付けた。

「んんっ!」

舌を侵入させ、絡める。
激しく口内を蹂躙し、しばらくしてやめ、今度はしいなの首筋に口付けた。
舌で傷をなぞると、びくりと反応をする。

「…ッ。何、考えて……」

「自力で治せないなら協力してやろうと思って。舐めたら治るって言うし、このまま全身の傷を治療してやるよ」

「…ッ!」
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