玉響〜symphonia〜
□片恋
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しいな、しいな。
何度呼んでも君は振り向かない。風のように走ってく。
しいな、しいな。
ずっとずっと呼び続ける。
やっと止まる。
「何だい?ゼロス。うるさい男は嫌いだよ」
水の静けさを湛えた背中。
しいな。
「嫌い」
ついにこちらを向いた目は冷たくて、鋭利な刃物となり俺に突き刺さる。
胸が鈍く痛んだ。
…嫌な夢で目が覚めた。
爽やかな朝の光が降り注ぐ。
隣には、旅の仲間のロイドくんが、気持ち良さそうに寝入っていて少し、殺意が湧いた。
「最悪…」
起き上がり片足立てて、寝不足と夢見の悪さで痛む頭をかかえる。
こういう時は二度寝が出来なくて嫌いだ。
ずっと堅いベッドの上に居るのも嫌な気分。
重い体を感じながら、寝巻きのまま、よろよろと外に出る。
囀ずる小鳥の声が勘に障る。
そよそよと髪を撫でる風すら憎らしい。
「あ゙ーっ!!」
イライラのあまり、手で髪をぐしゃぐしゃにする。
すっきりしたくて、宿であるロイドの実家の側にある清らかな川に手を突っ込み、ひんやりと気持ちいい水を掬い、顔にかける。
つっめて〜!
ほんの少し、目が覚めたので、暇潰しに家の回りをうろつく。
と、裏にある墓の前に佇む人間をみつけた。
艶やかな黒髪を跳ねさせ(ありゃ寝癖だな)、藤色の着物に桃の帯を締め、黒いスパッツをはいた女性…寝覚めが悪い原因となった、旅の仲間・しいなだった。
八つ当たりと分かっていても、言わずにはおれず、呼びかけた。
「しいな!」
夢とは違い、すぐに振り向いた彼女は、狐につままれたような妙な表情で俺を見た。
「ゼロス…?随分、早いじゃないか」
「しいなこそ」
「あたしは…習慣でつい、ね。どうしたんだい?朝帰りかい?」
「しっつれーだなぁ〜。俺様も早く目が覚めただけだっての」
「そうなのかい?」
「そう。しいなのせいで」
「あたしのせいって何だい!」
「夢の中で散々傷付けてきたくせに、知らないとか言っちゃうんだぁ?」
「はぁっ?夢でのことなんて知らないよ!」
「嘘ばっかり〜。ミズホ伝来の藁人形で呪ったんだ〜!」
「そんなことする訳ないだろう!?…全く何なんだい!せっかく気持ちいい朝なのに」
「…墓の前で?」
「アンタねぇ!」
怒った顔は愉快だからついつい、からかってしまった。
だいぶすっきりしたし、朝から殴られるのは御免だから、これくらいにしておこう。
「…何、考えてたんだ?」